セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏――「歴史に学べ!」先駆者が語る“IT産業の未来”(1/3 ページ)

CRMをオンデマンドで提供するサービスを展開するセールスフォース・ドットコムが急成長を遂げている。ソフトウェアをサービスとして提供する「SaaS」ビジネスの先駆者として、世界中で顧客を急増させている。企業の業務システムの利用形態を根本から変革させる可能性を持つ同社のビジネスの仕組みはいったい何が違うのか。

» 2006年11月08日 09時00分 公開
[松岡功,アイティセレクト編集部]

 「セールスフォース」と「ドットコム」。この2つの言葉は、IT業界ではこれまでのビジネスの経緯から廃れたイメージがつきまとう。そんなことなど関係ないとばかり、これらを社名とするセールスフォース・ドットコムが、今や企業の業務システムの利用形態を根本から変革させる勢いで急成長している。

 同社は1999年、業務アプリケーションをWebサービスとして提供するというコンセプトのもと、米オラクルの幹部だったマーク・ベニオフ氏(現・米セールスフォース・ドットコム会長兼CEO)によって設立された。主力のオンデマンドCRMアプリケーション「Salesforce」は、企業の営業、サポート、マーケティング部門の支援やパートナー情報のオンデマンドによる情報共有および一元管理を可能にする。とりわけ顧客から高い評価を得ているのは、導入と運用の簡便さだ。短期間で導入・運用でき、しかも使いやすいことから、早期にROI(投資対効果)を上げられるとあって、顧客数はここにきて急増中。06年7月末時点で全世界2万4800社、50万1000ユーザーがSalesforceを利用しており、この分野ではまさしくリーディングカンパニーである。

 さらに同社は、Salesforceのカスタマイズや他システムとの連携、新規アプリケーションの作成を可能とするオンデマンド・プラットフォーム「AppExchange」や、導入支援やトレーニングなどを行う「Successforce」を提供。総合的なCRMのオンデマンド・ソリューションを展開している。

 同社が設立された99年といえば、SFA(営業支援システム)が一躍注目されるとともに、ドットコム企業が全盛期だった頃だ。日本法人が設立されたのは翌2000年。当時は日本でのムードも米国と同じだった。しかし、その後SFAはすぐに根付かず、ドットコム企業も多くが水泡と化した。ただ当時乱立したドットコム企業の中でも、同社へ注がれる周囲の目は他社とは違っていた。例えばスタンフォード大学ビジネススクールなどでは、将来のIT産業を大きく変革する可能性のある存在として同社に着目。格好の研究材料にするほど、そのポテンシャルに大きな期待を寄せていたのである。

 その変革の芽が育ってくるにつれ、同社が描いてきたビジネスの仕組みを表す新たな言葉がいま俄然脚光を浴びつつある。それが「SaaS(Software as a Service)」である。

 前置きが長くなったが、そうした同社のビジネスの仕組みの“肝”について、日本法人の宇陀栄次社長に語ってもらった。

イージー・オブ・ユースが企業の業務システムに

アイティセレクト Salesforceが多くのユーザーに受け入れられているのはなぜですか。

宇陀 まず企業の業務システムのあり方における基本的な考え方として、インターネットの技術「も」利用できる形にしたのではなく、インターネットの技術「を」基盤にしたのが、これまでのシステムとの根本的な違いです。今や多くの人がブラウザをはじめ、グーグルやヤフーを使ってインターネット上でさまざまなアプリケーションを利用していますが、これは私に言わせるとコンシューマーの世界での大変革。まさしくそのイージー・オブ・ユースが大変革をもたらしたわけですが、それと同じことがいよいよ企業の業務システムにも起こり始めている。Salesforceがその先駆けとしての役目を果たしつつあるのです。

 一方、業務アプリケーションの利用形態ということで言えば、かねてからオンデマンド型のASPサービスが注目されてきましたが、これも現状では決められたサービスの型に自社の業務をあてはめて利用せざるをえないケースが多いと思います。

 ではSalesforceはどこが違うのか。ご質問の答えとして大きく3つの点を挙げたいと思います。まず1つ目は、Webサービスの技術を基盤にしているので既存の業務システムとの連携が容易に行えることです。2つ目は、これもWebサービスの技術を基盤にしているので例えば業種に合わせてカスタマイズを柔軟に行えることです。この2つの点については、お客様もさることながらビジネスパートナーの方々にとっても、Salesforceを扱いやすい商材として受け入れていただいている大きなポイントになっています。そして3つ目として強調しておきたいのは、Salesforceは多くのお客様に育てられ進化してきたシステムだということです。Salesforceはこれまでお客様のご意見ご要望をもとに20回もの機能強化を行ってきました。多くのお客様のノウハウが集積されているからこそ、絶大な支持をいただいているのだと確信しています。

セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏
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