「従業員と顧客」の満足度におけるリンケージとは?企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第17回(1/2 ページ)

従業員の満足と顧客の満足はどちらか一方だけが飛躍することはない。必ず相互に影響しあう。従業員の満足が、うまく顧客サービスへとつながるようにITを利用すべきだ。

» 2006年11月17日 09時00分 公開
[ITmedia]

待遇改善だけで満足度は上がらない

 ES(Employee Satisfaction、従業員満足)を左右する要因として大きく2つ考えられると、米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグは分析する(F・ハーズバーグ著、北野利信訳「仕事と人間性」東洋経済新報社)。1つは苦痛につながる「不満足要因(衛生要因)」(給与、地位、管理方式、人間関係、雇用保障、作業条件、職場環境など)で、不満を解消することが必要だが解消しても充分満足はしない。もう1つは満足につながる「満足要因(動機付け要因)」(達成度、承認度、責任、仕事の質、昇進など)で、満足させるとやる気が出てくる。「不満足要因」を満たすことも重要だが、「満足要因」を満たさないと本当のモラールは上がらないとする。

 しかし現場で起きているESを萎えさせる現象はほとんどが「不満足要因」に関わるものであり、残念ながら苦痛につながるという最低限の不満さえ解消できないでいる。 

 卑近な例を挙げるなら、某中堅企業で新入社員が職場に配属されたとき机も何も用意されておらず、本人の目の前であわてて準備をしたり、定年退職する社員に対する手続きが期限ギリギリだったりぞんざいだったり、彼らが自らの存在価値に疑問を持ちたくなる状況である。この場合まさに出入り口で管理不充分なのだから、途中の状態も想像できる。

 この例の「不満足要因」さえも解消できない企業では、従業員にCS(Customer Satisfaction、顧客満足)指向で業務に従事しろと言っても、彼らの関心は自分達自身のことで精一杯であり、関心がお客の方に向く余裕などとても見られない。特に、「不満足要因」の中で技能継承制度の欠陥、減点主義、役員の確執や派閥の衝突、そして従業員の扱い方などほとんどが、日常的に従業員の関心が向く要因であり、ESに与える影響は計り知れない。

ESを即物的にしかとらえない経営者

 一方で、一部存在するESに対する誤解を解かなければならない。ESの重要性を説くと、「そんなこと言ったって、そうそう給料は上げられないよ」とか、「福利厚生施設だって最近は削減の方向だからね」とか、あるいは「リストラに取り組まないと、ESどころか会社そのものの存在が危ない」とか、即物的側面からしか考えられない言い訳が多い。それが、まるでES軽視の免罪符になっているかのようでさえある。

 経験的に言えることだが、満たされない「不満足要因」の中には、BPRやリストラなどに関わるような、給与・雇用保障・作業環境など解消のために多くの資金や時間を必要とするものがあり、それはそれでもちろん重要だが、それよりも管理方式・人間関係・作業条件などのようにトップや経営陣が問題意識を持ち、彼らの考え方1つで解消できるものの方が圧倒的に多く、その影響も大きいのである。まず、そこから手をつけるべきである。

 経営者よ、CSを説く前にESを説け。ただし費用や時間のかかるESを考えて、ES向上への着手を逡巡したりES回避の免罪符にしたりせず、「不満足要因」の中の極めて卑近なテーマからただちに行動を起こすべきである。それは日本的経営の良い面への回帰でもある。

 例えば役員の狭隘な考え方や姿勢を改める、作業条件を改善する、従業員の人格を認め権限委譲する、従業員の悩みや疑問に応えるなど、効果的行動を起こさなければならない。

 高級ホテルチェーンであるザ・リッツ・カールトン大阪の行動例は、優れて参考になる。全社指針を示した「信条カード」をもとに、毎日15分間のミーティング、年間30日の研修、さらに驚くべきことは従業員が自分の担当するお客の不満解消のために20万円まで自由に使える制度があるという。

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