眠れない端末? “くせ者”パワーセーブモードを使いこなす無線LAN“再構築”プラン(3/3 ページ)

» 2006年12月13日 08時00分 公開
[寺下義文,ITmedia]
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APのステルスモードを使うべきか

 実は、パワーセーブ機能に直接は含まれてはいないのだが、「Active Scan」と「Passive Scan」という2つのスキャンモードが存在している。これら2つには、以下のような違いがある。

  • Active Scan

自ら(自端末に設定されたSSIDを載せている)Probe Requestを送出し、その要求を受け取った同一SSIDを持つAPからProbe Responseを返してもらうことでAPへのアソシエートを試みる。

  • Passive Scan

APから定期的に送出され続けている(APのSSIDを載せている)ビーコンをモニタして、自らに設定されているSSIDとマッチするかを判別し、一致した場合にのみAPへのアソシエートを試みる。

 そしてこの両者の違いは、圏外にある端末の電池消耗を大きく左右することになるのだ。

 圏外にある端末はいずれは圏内に戻るわけだが、Passive Scan(受け身のスキャン)では、圏内に戻ることで接続が可能そうなSSIDを載せたビーコンを自然に検出し、その途端にアソシエートを試みることができ、即時に圏内復帰することができる。だが、APがステルスモード(セキュリティ上、SSIDを伏せてビーコンを発信するモード)に設定されている場合、ビーコン上のSSIDは伏せられているため一致するかどうかも識別できない。このため、Passive Scanを用いることができなくなってしまう。

 したがって、ステルスモードに設定されたAPの配下では、必然的にActive Scanを採用せざるを得ない状況となる。問題なのは、このActive Scan(積極的なスキャン)ではProbe Requestを定期的に送信し続けなければならないことである。N900iLは、このProbe Request送信タイマーがデフォルトで60秒に設定されている。このため、圏内に復帰していても、最長60秒間、圏外のままとなってしまう場合があるのだ。こうしたことから、このタイマーを短くして圏内復帰を早めたいという衝動に駆られるのである。

 そこで、このタイマーを仮に3秒に変えてしまったとしよう。すると端末が圏外にいる間、3秒間隔でProbe Requestが送出され続けてしまうことになり、パワーセーブがまったく働かないばかりか、異常に電池を消耗する結果まで招いてしまう(N900iLの場合、実際には60未満の値には設定できない)。

 また60秒のままであっても、複数のプロファイルにそれぞれ異なるSSIDが定義されており、またそれがすべてスキャン対象に加えられている場合、その数分だけProbe Requestが送信されることになり、この場合にも著しく電池を消耗するのだ。実際はこちらのケースに陥ることが多い。

 無線LANが登場した当初、セキュリティ的な観点からSSIDをあえて伏せてビーコンを送信するというステルスモードを勧めるケースが多かった。しかし、現在ではたとえSSIDを伏せてあっても、結局は通信中のパケットをキャプチャすれば容易に把握できる。またIEEE 802.11iの登場によってしかるべきセキュリティが確保されたことで、SSIDはAPを特定するための単なる識別子という認識に変わってきている。

 したがって、ここではステルスモードの利用を止め、Passiveモードが使えるように調整することを推奨したい。もちろん、きちんとしたセキュリティ対策が実施されていることが大前提であることはいうまでもない。

もしかして低血圧?

 さて、上記の調整によってほどなく端末を寝かしつけることに成功したと思うが、着信したら起きてくれなければ困ることはいうまでもない。しかし、端末はいったん仮眠状態に入ってしまうと、簡単には起きてくれない。5秒程度、反応を返せる(起きる)までに時間がかかるようだ。

 IP-PBXでは、着信先の端末が圏外に出てしまっているときなどを想定し、「おかけになった番号は、電波が届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません」といったトーキー(ガイダンス)を流すように調整しているはずだ。これは、着信先からの反応がある一定時間内に得られない場合、つまり無応答時にそのように振る舞うよう呼処理装置側でタイマーを調整するものである。この反応を良くしようとするあまり、この無応答タイマーをあまり短い時間に設定してしまうと、パワーセーブ状態の端末を呼び出せない。あるいは、一度かけてすぐに2度目をかけ直すとつながるという現象を引き起こすのだ。

 したがって、IP-PBX側の無応答タイマーを、端末が目を覚ますまで引き延ばす調整も忘れてはならない。

プレゼンス機能に要注意

 ここまでの調整でパワーセーブ機能は完璧と思っていると、さらに新たな問題が浮上してくる。それは、プレゼンス(状態管理)機能である。N900iLに実装されているプレゼンス機能は、図2のようにバディリストに登録したメンバーの状態をリアルタイムに表示する機能である。

図2 図2●N900iLのプレゼンス画面(出典:NTTドコモ)

 この状態の中でも要注意なのが、「電話中」のステータスである。この電話中というステータスは、その登録されたメンバー自身が電話をかける操作によって通知され、通話を終了すると再び「オンライン」として通知されるもので、このときにはSIPの授受(NOTIFY)が必ず発生してしまうのだ。

 このため、不用意に多数のメンバーを登録してしまうと、絶えず誰かしらが必ずステータスを変化させることになってしまい、結局端末は眠りにつくことができないという状況を招いてしまう。

 したがって、プレゼンスを利用している場合で、かつ長時間電池を持たせたいユーザーほど、不必要にメンバーを登録しないよう注意を喚起しておくことも重要である。

寺下義文

日立コミュニケーションテクノロジー IPネットワークセンタ 開発部 SIP:OFFICEグループ技師。1986年、日立インフォメーションテクノロジーに入社。以来9年間データベース関連製品のプログラマーを経験し、1995年からネットワークSEとして多数の大規模ネットワークの構築も経験。さらに2003年から自社VoIP製品である「SIP:OFFICE」の開発に従事。2006年10月より事業統合により同社に転属。難解な技術を平易な言葉で表現することには定評がある。燃料は酒。これがないと走らない。


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