その技術的な問題への対応に加えて、もう1つ大きな理由となるのがセキュリティ問題だ。こちらは社会への不安から大きな注目が集まり、多額の予算が投じられた。
セキュリティとはいえ、クレジットカード番号や個人情報を守るといったたぐいの話ではない。もちろんいずれはそのようなレベルで利用される可能性もあるが、現在注目されているのは国家機密や軍事情報、テロリストの摘発といった国際レベルのセキュリティである。
現在、こうした機密情報を保護するものとしては、RSA(Rivest Shamir Adleman)暗号が主流となっている。RSA暗号をはじめとする現在の暗号技術は、従来のコンピュータが桁数の大きな値を因数分解するのに膨大な時間がかかることを利用している。桁数が多くないものでさえ、100台以上のコンピュータで協調計算をさせたとしても、数カ月はかかってしまう。桁数が増えるだけ解読には多くの時間が必要になり、強固な暗号の場合、解くには何千年という時間がかかるともいわれている。これは、データの盗聴や改ざんを目的とした場合、とても現実的な時間とはいえない。非常に時間をかければ破ることはできる。が、現実的には破れない――。これが現在の暗号技術の理屈だ。
では、仮に因数分解が非常に高速に解けるアルゴリズムが開発されたとしたらどうなるのか。現在のコンピュータをそのまま利用して解く方法は今のところ発見されておらず、今後も発見されないだろうと予測されていた。しかし、解く方法は存在した。それが量子計算だ。暗号研究者は、量子計算の可能性に重大な脅威を感じた。
しかし、1984年に発表された「BB84プロトコル」は、同じく量子を利用した暗号方式だが、量子状態に直接情報を載せることで「原理的に安全な」暗号通信が可能になると判明。これは、RSA暗号のように画期的な計算方式が発明されれば解けてしまう、というようなヤワなものではなかった。
そして、1994年に発表された「Shorのアルゴリズム」は、量子状態を利用して情報処理を行うことで、因数分解を非常に高速に行うことができるという、画期的な量子アルゴリズムとされた。
「方法によって実際にかかる時間は変わるため、定量的に示すことはできないが、これまで解読に何千年もかかるとされていたものが遅くても数時間程度で高速に解けると分かった。これは非常に衝撃的だった」(丸山氏)
それ以後、もはや国家機密の安全を守る方法はないのか、いや反対にテロリストの情報を解読できる、などといったことに米軍が興味を持ち、研究が盛んになったという。
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