Vistaは躍進できるか「行く年来る年2006」ITmediaエンタープライズ版(3/3 ページ)

» 2006年12月26日 07時00分 公開
[柿沼雄一郎,ITmedia]
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Vistaで変わるコンピューティング

 Vistaが次世代Windowsプラットフォームとして提供するものは多い。それらがどのような影響を与えるかを考察してみる。

 まずはAeroに代表されるPCの新たなルック&フィールだ。だが疑問はある。3Dがユーザーへどのようなメリットをもたらすのか。

 使い手にとってのメリットは、より多くの情報を分かりやすく可視化してくれることだろう。PCの二次元のディスプレイ画面に3D表示の要素を取り入れることで、現実世界と似たような距離感をPC画面に感じることができるようになる。扱いやすさが生まれるのだ。しかしそれをアプリケーションがどう使うかは、開発者やアプリケーションデザイナーの手腕となる。アプリケーションベンダーがここにチャンスがあると見るかどうか、この点に、Vistaリリース後に「Vista必須」のアプリケーションラインアップが出揃うか否かのカギがある。

 もちろん、すでにVistaに向けたアプリケーション開発を行っている企業はある。彼らによれば、WPFとWCF、WFといった.NET Framework 3.0のコンポーネントを利用することで、従来よりも短時間でアプリケーション開発が完了するという。こうしたコンポーネントが有効に機能するアプリケーションを作成する場合は確かにそのとおりだ(逆の場合もありうるだろう)。ただし、.NET Framework 3.0は現行のXPおよびWindows Server 2003に向けても提供されるため、.NET Framework 3.0対応アプリ=Vista必須アプリではない。

 また、デスクトップ上で動いている小さなアプリケーションであるサイドバーガジェットは、ネットワークからデータを取り込んでさまざまな情報をユーザーにインタラクティブに提供する。スタートメニューから起動するよりも簡単で、ローカルアプリケーションとネットワークサービスの区別を意識することなく利用できる。しかも、スクリプトをベースとしたプログラムなので、作成の敷居が低いことも普及の要因となるだろう。こうした点から、ガジェットもアプリケーションのあり方を変えていく技術であることは間違いない。

 企業にとっては、Vistaのセキュリティに関する機能の有用性がポイントとなるだろう。今やWindows XPは、ほぼすべてのユーザーにとって十分な機能とセキュリティのレベルを提供していると言える。となると、Vistaへの移行は必要なしと考えることもできる。だが、今は十分でも、半年後あるいは一年後にそれらが十分なものであり続けられるかは誰にも分からない。もちろん、そのときこそ移行のタイミングだと考えても良い。

 しかしながら、特に企業においてもデスクトップ機よりノートPCの利用率が高くなった現在、携帯中に紛失したノートPCから機密情報が漏洩するといったすでに起こりうる事態を防ぐために、USBメモリとの組み合わせによってのみPCを起動することができ、しかもHDDの内容を強力に暗号化できるVistaのBitlocker機能は十分に移行の動機になるだろう。USBキーとノートPCを同じ1つのカバンに入れたまま紛失しない限り、万一PCが第三者の手に落ちても情報は守ることができる。この機能のおかげで、Vistaの企業導入がむしろノートPCを牽引力として進むことも予想できる。ノートPCでの利用率が高い統合型グラフィックスチップの高性能化と、2.5インチおよび1.8インチHDDの大容量化および低価格化が進むことが、この流れを加速する条件になる。

1997年から2001年まで東京・秋葉原で開催されていた「インターネットショウ in 秋葉原(AKIBAX)」。マイクロソフトはVistaによってこのイベントを5年ぶりに復活させた。写真は同イベント記者説明会でのマイクロソフト日本法人 Windows本部長 ジェイ・ジェイミソン氏

 早期にコンシューマー分野への普及が進むと言われているVistaだが、マイクロソフトの中川哲 ビジネスWindows製品部長は、「XPでは3年強かかった企業導入率50%超を、Vistaでは1年半で実現したい」と言う。WinFSや(検索フォルダではなく)仮想フォルダなど、今は亡き機能たちへの惜別の思いはあるにせよ、上で述べたようなプラットフォームとしての革新の有用性が企業に理解されて行けば、この目標もそれほど無理なく達成できるかもしれない。

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