第2回 目的達成のサポートツール、ビジネスコーチング現場で使えるコーチング術

上司に不満がある、会社に自分の居場所がない、会社は変わらない……こうした企業内の問題について、その改善のためのサポートツールとなる「ビジネスコーチング」について解説する。

» 2007年01月24日 14時30分 公開
[杉浦麻耶,ITmedia]

 突然だが、あなたは現在の会社で、自分の能力が100%発揮されていると自信を持って言えるだろうか? あなたがそう願うだけでなく、企業もそれを望んでいるにもかかわらず、現実はそうでないケースが多い。こうしたケースに陥るのはなぜか? そこには、システム的なインフラと、メンタルの両面から考えていく必要があるが、本連載では後者にフォーカスしている。そこで、今回から2回にわたり、部下を育成し、組織の活力を確実にアップさせるスキルであるビジネスコーチングについて解説していきたい。上司に不満を持っている人、会社に自分の居場所がない人、会社は変わらないとあきらめている人、毎日の仕事がおっくうな人、さらには、どう部下を扱っていいか分からない管理職の人は必読である。

コーチングとビジネスコーチングの違い

 第1回で、コーチングの基本的な考え方は「答えを相手から引き出すこと」「その答えは相手の中に必ず存在する」と述べた。個人レベルの解決法であるパーソナルコーチングと違い、社員と会社の双方が「WIN-WINの関係」になるための循環を生み出す仕組みであるビジネスコーチングも基本的にはこの考え方に沿っている。1つ異なるのは、答えは組織の中にあるということだ。奇しくも日産自動車取締役共同会長兼社長のカルロス・ゴーン氏が「答えは組織にあり、わたしの仕事はそれを引き出すこと」と述べているが、この言葉こそがビジネスコーチングを端的に示しているといえる。

 さて、あなたは、このような状況に遭遇したことはないだろうか? 火を噴きそうなプロジェクトの現状をいくら説明しても「そのプロジェクト必ず成功させてくれ。さもないと大変なことになる」「君の評価はこの仕事にかかっている」と無意識にマイナスの負荷ばかり与えるダメ上司。優秀な社員と評される人たちは、一見実現が困難に見えるプロジェクトに果敢に立ち向かい、それを達成することに喜びを感じるものだが、そんな彼らであっても、困難を通り越した無理難題には立ち向かう意欲すら失せてしまい、後に残るのは徒労感と挫折感となってしまう。

 管理職のスキルセットの1つとして求められるのは、部下の士気を高め、目標をきちんと達成できるようにコミュニケーションスキルを生かしながらサポートすることである。こここそがビジネスコーチングが威力を発揮する場であり、コーチングスキルを使ってお互いを見つめ「答え」を導くのだ。ビジネスコーチングは命令や指示ではない。目的を達成するためのサポートツールである。

決まった型は存在しない

 ここで気をつけたいのは、すべての社員に対応できる万能のコーチング術など存在しないことである。それぞれの部下に個性があるように、能力を出す方法はさまざまである。コーチングを行う上司が、答えやすいタイミングや質問を見極め、順序を見越してその都度合わせていくことが必要である。

 例を挙げよ。管理職が恐れるものの1つに、部下が抱く不満が挙げられる。不満とは、相手に対してきちんとしたメッセージがあるから発生するもの。そこで、部下に不満を解決する提案をしてもらうのも1つのコーチングである。

部下:「今の流れの体制は、非効率的だと思います」

上司:「具体的にどこが非効率的なんだろう?」

部下:「皆が意識をもって、やっていない。ただの流れ作業だからこれ以上伸びないのではないですか?」

上司:「仕事自体は大変意味のあるものだ。しかし、単なる流れ作業になってしまっているのならそれは問題だね。どうしたら変わると思う?」

部下:「その週で1つ1つ目標を決めて、朝礼のときに言ってみるのはどうでしょうか?」

上司:「悪くないね。今度の会議はわたしも同席するから、皆に君から提案してみてくれないか?」

部下:「はい、ありがとうございます」


 仕事で詰まっているとき、誰しも自分の考えに固執してしまいがちである。そんな時、上司が的確なサポートをすれば、答えがスムーズに引き出される。もちろん、一方的に意見を押しつけたり、ただ褒めればいいというわけではない。存在を認めた上でサポートし、部下が主体となって何かをするよう導くことが大切なのだ。上司のリーダーシップがない、と嘆くそこのあなた。大事なのは、上司との信頼関係であり、それにはあなた自身も深くかかわっていることを忘れないでほしい。

 個人個人のプレーも重要だが、ビジネスコーチングでは組織としての改革も問われる。次回は、組織に焦点を当てたビジネスコーチングを解説する。目的に向かって組織をまとめ、部署や組織に対し成果や答えを引き出すにあたり、問題は何か、そして、それをどのように改善すればよいかを考える。

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