VistaとOfficeのイノベーションの原動力はMS Research

Vistaで採用された新しいデスクトップ検索機能や、Office 2007の新しいリボン型ユーザーインタフェースは、Microsoft Researchの考案によるものである。これらはどのようにして生み出されたのだろうか。

» 2007年01月26日 07時00分 公開
[Peter Galli,eWEEK]
eWEEK

 間もなく登場するWindows VistaとOffice 2007の両製品に盛り込まれた新技術の幾つかは、Microsoft Researchが最初に考案したものだ。同部門の研究チームはその後、これらの技術を最終製品に組み込めるようにするために、各製品グループと緊密に共同作業を行った。

 Microsoft Researchが貢献した技術としては、Vistaで採用された新しいデスクトップ検索機能、Windows サイドバー機能、Windows SuperFetch機能、Office 2007の新しいリボン型ユーザーインタフェースなどがある。

 Microsoftのスティーブ・バルマーCEOやプラットフォーム/サービス部門のジム・オールチン共同社長など同社の経営幹部がしきりに宣伝してきた新機能の1つであるデスクトップ検索機能は、Microsoft Researchのアダプティブシステム/インタラクショングループの主任研究員、スーザン・デュマス氏が約5年前にコンセプトを考え出した。

 この新しいデスクトップ検索技術はリッチなユーザーインタフェースを備え、ユーザーのコンピュータ全体を素早く検索し、検索結果を1カ所にまとめて保存する。

 ずっと以前から情報検索に興味を持っていたというデュマス氏は5年ほど前に、Microsoft Research内部で使用するために「Stuff I've Seen」と呼ばれるデスクトップ検索機能のプロトタイプを作成した。この技術はMicrosoft社内に導入され、約3000人のスタッフが利用した。その結果、デュマス氏とそのチームはこのプロジェクトの課題や問題点を学ぶことができたという。

 「われわれはその後、MSNおよびWindows Vistaの各製品チームと緊密な共同作業を開始し、われわれが学んだ教訓を彼らに伝えた。例えば、ユーザーが検索対象について多くの情報を知っており、具体的な特性を覚えている場合が多いという事実、柔軟なインタフェースが必要であること、ユーザーが日付を重視していることなどだ」と同氏は話す。

 デュマス氏のグループの研究成果を取り入れた新しい検索エンジンは、MSNの最新版およびWindows Vistaに組み込まれている。

 Windows サイドバー機能は、Windows Vista搭載PCの画面の端に配置されるウィンドウである。これは基本的に、サイドバー自身とWindowsデスクトップの上にガジェットを表示するためのアプリケーションであり、ユーザーは表示される情報(天気、交通、株価など)をカスタマイズすることができる。

 この技術は「サイドショー」と呼ばれるプロトタイプとしてスタートし、後に「サイドバー」という名前に変更された。サイドショーを開発したのは、Microsoft Researchのインキュベーショングループのプログラムマネジャー、JJ・カディズ氏とそのチームである。

 メモリ最適化技術のSuperFetchに関して、Microsoft Researchのアダプティブシステム/インタラクショングループの主任研究員でリサーチエリアマネジャーを務めるエリック・ホービッツ氏が米eWEEKに語ったところによると、Microsoftにおける同氏の個人的な夢の1つが、ユーザーおよび状況を理解できるようなインテリジェンスをOSに付与することだったという。

 「この手法を採用すれば、ユーザーの挙動とニーズに対する予測に基づき、メモリなどのコンピューティングリソースを動的に割り当てる機能をOSに与えることができる」とホービッツ氏は説明する

 「SuperFetchではコアOSチームと緊密な共同作業を行った。われわれが開発したアルゴリズムとコードは現在、SuperFetchコンポーネントの一部になっている。この技術が日の目を見るようにするために、われわれはOSチームの情熱的なスタッフと緊密に協力した」と同氏は話す。

 ホービッツ氏の手法は、ユーザーが時系列的に起動するソフトウェアアプリケーションの順序を観察・学習する能力をOSに与えるというもの。ユーザーを観察することにより、Vistaはディスクからメモリにアプリケーションをプリフェッチするための個人別ポリシーを学習し、これによりアプリケーションの起動が全般的にスピードアップする。

 「つまり、ユーザーがクリックしてアプリケーションを起動するとき、ユーザーの時系列的な操作パターンを学習してきたOSは、(ユーザーに意識されることなく)既にそのアプリケーションをハードディスクからメモリに読み出している可能性があり、その場合にはユーザーは素早くそのアプリケーションを利用することができる」と同氏は説明する。

 ホービッツ氏によると、この手法の中核となるのは機械学習技術であり、システムはアプリケーションの使用順序を観察することにより、ユーザーがこれから行おうとする操作の確率をシステムが「学習する」という。

 「応答を待つーザーのフラストレーションのモデルもコーディングし、待つことでフラストレーションが高まるという認識をシステムに与えた。この技術は、ユーザーが要求する前にメモリにプリフェッチすべきアプリケーションの優先順位を決定する機能の中で使用している。われわれが嗜好モデルと呼ぶ技術がVistaで採用されたことをうれしく思っている。Vistaでは、ユーザーが応答を待つときに感じるフラストレーションの感覚がシステムの奥深い部分にコーディングされている」と同氏は話す。

 SuperFetchに関する研究は、ユーザーのニーズおよびインテリジェントなリソース割り当てをOSが学習・予測することを目指した取り組みの出発点に過ぎないという。

 「将来版のOS用として、さらに洗練された方法について議論を重ねている。利用可能なリソースを使ってユーザーが何を必要とするかを予測し、非常に巧妙な方法で予測計算やプリフェッチを実行することによって、すべての利用可能なリソースを常に活用するシステムの開発を続けたいと思っている」(同氏)

 Microsoft ResearchはOfficeリボンのアイデアそのものを考案したわけではないが、ヒューマンセンタードコンピューティンググループのリサーチエリアマネジャーで、ビジュアライゼーション/インタラクションリサーチグループのマネジャーを務めるメアリー・チェルウィンスキー氏とそのチームは、プログラムマネジャーやユーザーリサーチャー、開発者などを交えた意見交換、分析、コンサルテーションという形で開発に協力し、このUIに関する知恵やアイデアを提供した。

 Office 2007の開発計画の非常に初期の段階で、チェルウィンスキー氏とそのチームは、OfficeのUI機能を簡素化したいと考えていたユーザーリサーチャーチームおよび機能開発チームと定期的に会合を行ったという。

 「われわれは最終的に、UI機能の使われ方を統計的に分析する必要があるとの結論に達した。Officeを使っている何千人というボランティアから集めた使用方法に関するデータを分析し、どのUI機能が最もよく使われているのか、また、どの機能とどの機能が一緒に使われるのかを調べた」とチェルウィンスキー氏はeWEEKの取材で述べている。

 これらの分析結果は、Office開発チームによって幾つかのタスクエリアに分類され、そこからリボンというアイデアが生まれた。チェルウィンスキー氏によると、リボンが設計された後で、Microsoft Researchチームは、さまざまなウィンドウサイズに対応したリボンのレイアウトや、ホットキーショートカットのデザインなどに関してたびたび相談を受けたという。

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