FOSSの理想郷ブラジルにイメージ失墜の危機OSS World Report(1/2 ページ)

国際的なメディアは、ブラジルをFOSS(フリーおよびオープンソースソフトウェア)導入の先駆者と位置づけているようだ。しかし、ブラジル情勢に詳しいFOSS支持者によると、状況はそれほど楽観的ではないという。

» 2007年01月30日 09時00分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 国際的なメディアは、ブラジルをFOSS(フリーおよびオープンソースソフトウェア)導入の先駆者と位置づけているようだ。New York Times紙はこの国を「フリーソフトウェア運動のリゾート地」と表現し、BBC Newsは「ブラジルの行政省庁および国営企業はオープンソースまたはフリーソフトウェアへの傾倒により、いよいよWindowsを手放しつつある」と報じている。ところがブラジル情勢に詳しいFOSS支持者によると、状況はそれほど楽観的ではないという。

 FOSS支持者たちが言っているのは、ブラジル政府による計画性を欠いた支援、根底にある思想を十分に理解せずにFOSSを宣伝文句にしているビジネス環境のことである。また、GNU一般公衆利用許諾(General Public License:GPL)への違反もあるという。中には正真正銘のFOSSを導入しているところもあるが、多くの場合は手際の悪さ、場合によっては蔓延した不正行為によって台無しになっている。

 2003年に発足した最初のLuiz Inacio Lula da Silva政権下で、FOSSの導入は重要な政策の1つとして発表された。連邦および州政府のFOSSへの移行を奨励するほか、Silva政権はブラジル国民が安価なコンピュータを入手できるようにする「PC Conectado」制度にもFOSSを採用した。こうした取り組みの発表により、ブラジルはやがてFOSS導入の模範国になるとの印象を諸外国に与えたのだ。

 しかし、さい先よく始まったこうした取り組みの成果はまだ見えず、その上FOSSを奨励する政策の行き詰まりを示す徴候まである。2006年後半、シルバ氏は再選を果たしたが、与党の政策綱領の中にはフリーソフトウェアに触れた公約がたった1つしかなく、それも「手続きの簡素化、公務員の養成、およびフリーソフトウェアの利用などテクノロジー基盤の拡大による、国民への直接的および遠隔による公共サービス提供の改善」という簡単なものだった。これまで掲げられていたFOSS普及プランの内容はどこにも見当たらない。おそらく今回FOSS を強調しなかったのは、リオグランデ・ドスル州でFOSSソリューションを優先する州政府の法律に反対して憲法論議を起こそうとする勢力など、プロプライエタリなソフトウェアの関係者による反対が高まったためだろう。

 何よりも、FOSSであることの主張そのものに対してブラジルのFOSS支持者たちが懐疑的になっている。例えば、Conectiva(現在はMandrivaの傘下にある)はシステムインテグレーターのPositivoと提携してConectivaのインストールされたPCを9万台以上出荷したと大々的に宣伝したが、Debian開発者のグスタボ・フランコ氏は「ほとんどすべてのユーザーはMicrosoft Windowsのコピー版をインストールし直していた」と述べている。フランコ氏にはその主張を裏づける証拠はないが、ブラジルの低所得者が求めているのはフリーソフトウェアよりもテレビや広告で見慣れたものだ、と彼は指摘する。例え全面的には正しくないにせよ、彼の発言にはFOSS支持者たちが苦々しい経験から学んだ慎重な姿勢が反映されている。

 FOSSへの関心はまだブラジル全土に残っているものの、2007年に入ってその関心が深まる兆しはなかなか見えてこない。「口先ばかりで行動を起こさない人が多いのだ」とDebian開発者のオタービオ・サルバドール氏は言う。

品質面のごまかし

 依然としてFOSS導入の徴候はブラジル中に見られるが、FOSS関連の有識者たちはリリースされるコードの品質とその取り組みが向けられる先について懸念している。

 また別のDebian開発者グスタボ・シルバ氏によると、連邦政府の計画立案組織はDataprevという公社と提携してCACICと呼ばれるインベントリシステムの開発をGNU GPLの下で進めているようだ。「優れたコードではないが、フリーソフトウェアの概念を政府に示し、実際のコードの公開とメンテナンスが行われている」と彼は説明する。

 同様に、政府のソフトウェア開発機関である情報技術国立研究所(Instituto Nacional de Tecnologia da Informac)と政府公認の連邦データ処理サービスSERPROは、無料のソフトウェア教育制度を実施し、一部行政機関のFOSS移行を支援している。シルバ氏は「省庁の1つでITマネジメントに携わっていたときにこうした取り組みに参画したが、彼らの仕事ぶりは非常にお粗末でまったく計画性が見られなかった」と語る。

 あるケースではインストール済みDebianパッケージ上へのソースパッケージの構築がWindowsベースのrdesktopを用いて混成Debianマシンで行われていたり、別のケースではメールサービスの移行が既存のインフラストラクチャを無視して行われたりしていた、とシルバ氏は言う。「そうした行為は大きな損害をもたらした」

 また、ブラジル最大の公的金融機関の1つCAIXAがDebianベースの独自オペレーティングシステムの実装を行った事例もある。シルバ氏はこのOSについて「アップグレードしようとすると壊れるので、サーバ上でまともに使うのは無理」と述べているが、CAIXAでは実際に使用されている。しかも、このOSのリリースは「ITにかかわる政府の重鎮が列席した大きな会議」で発表されたという。シルバ氏の心配は、そのような取り組みがパフォーマンスの悪さからFOSSのコンセプト全体の信用を落とし、マーケティングを重視するあまり技術的な検討を疎かにしている表れではないかという点である。

 同じように、フランコ氏も「One Laptop Per Child」プロジェクトからノートPCを購入するという政府の計画に懸念を示している。「プロジェクトそのものは素晴しいアイデアだが、ブラジル政府の目的はこのノートPCを教員に手に委ねることにある」のであって、プロジェクトが意図する低所得者への分配にあるわけではない、と彼は言う。

 またフランコ氏は、ブラジルに低価格PCを普及させるそのほかの試みの中には「品質の疑わしいハードウェアに対し、そうしたハードウェアに十分に対応していないLinuxディストリビューションをバンドルしている」といううわさについても語ってくれた。

 シルバ氏とフランコ氏は、こうした取り組みの失策やパフォーマンスの低さによってFOSSのコンセプト全体が傷つけられることを案じているのだ。一部の政府機関がIBMやCiscoのような多国籍企業から資金援助を受けているという事実も、FOSSにとっては災い以外の何物でもない。「ブラジルにおけるFOSSの過剰な宣伝はマーケティング活動なのだ」とフランコ氏はblogに記し、シルバ氏も同様の意見をNewsForgeに語った。

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