システム管理者に迫られる「人生の選択」女性システム管理者の憂鬱(3/4 ページ)

» 2007年02月01日 08時00分 公開
[高橋美樹,ITmedia]

 しかし、わたしの中では微妙な気持ちの変化が起こっていた。正社員になった途端、会社から言われたことを順守しなければという臆病な一面が出てきてしまったのだ。現場では、システム運用担当なのだから、それ以外のことはするな、というお触れにかなり過敏に反応し、各部署が自前で立ち上げるシステムに関する相談にも、調べる前に契約外だからできない、と応えるようになっていた。今思えば、会社間の契約は守る必要がある、という建前をふりかざし、自分のスキルでは太刀打ちできない難しいことから逃げようとしていたのかもしれない。

 そんなころ、それまでわたしひとりでシステム管理を担当していた拠点が、他の拠点に吸収されることになり、2倍の数にふくらんだユーザーをもうひとりのシステム管理者と共同で担当することになった。そこの管理者A君は、留学を終えてすぐにその拠点のシステム管理者となりもうすぐ1年になろうとしていた。

 このA君はわたしとまったくタイプの違う管理者で、頼まれたことを拒否したところを一度も見たことがなかった。知識欲旺盛で開発もこなすやり手であったが、見た目はひょうひょうとしてかなりのマイペース。点張っているところや怒っているところを見たことがなかった。いつも自分の評価を気にして、ぷりぷり周囲に責任を転嫁しているわたしとは大違いであった。

 一緒に仕事を始めた当初わたしは、このA君にさえ、情報を開示してくれないだの、管理がゆるいだの不満を抱いていたが、彼の仕事ぶりを目の当たりにするうちに、これからの企業とはこういう人材を求めているのではないか、と思うようになった。わたしは自分の評価を上げるために仕事をしていたが、この人は仕事を面白がってこなしていた。解決できないような事象に直面したときでも、こっちが青い顔でメーカーにクレームを入れたりネット検索をしている横で、すんなり裏道を見つけてきたり、バッチファイルを作ってくれたりと柔軟に対応してくれた。

 A君は、そんなこともすべて楽しんで対処してくれるので、恩着せがましくもなく、自分の手柄と吹聴することもなく、ただスマートに目の前の障害をリズミカルに飛び越えていくのであった。かなり年下であるはずのA君に、仕事への臨み方を教えられたような気がしていた。

A君の選択

 そうして部署統合も落ち着いたころ、A君にも正社員採用試験の打診が寄せられたようだった。

A君:「やっぱり安定という意味では、正社員になっておいてほうがいいんですかね」

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