Samba開発陣の一斉離脱のうわさはデマと判明

NovellとMicrosoftとの特許協約に対する抗議運動の一環として、NovellのSamba開発チームがRed Hatに移籍したというのは、どうやらデマだったらしい。このうわさが生じた背景に迫る。

» 2007年02月20日 07時00分 公開
[Nathan-Willis,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 「Boycott Novell」というブログに掲載された2月6日付の記事には、NovellとMicrosoftとの特許協約に対する抗議運動の一環として、NovellのSamba開発チームが一斉に辞表を提出し、ライバル企業のRed Hatに移籍したことを伺わせる内容が書かれていた。それが事実であれば、Red Hatをも巻き込んだ一大事件となるはずである。ところがよくよく調べてみると、そんな出来事はまったく起こっていなかったのだ。

 「Boycott Novell」に掲載された記事のタイトルは「Samba Team Walked Out on Novell?」(SambaチームがNovellを離脱か?)というものであり、そこに報じられているのは「Computerworld Australia」からの引用として、NovellのSamba開発チームに属する5名全員が既に退職しており、ジェレミー・アリソン氏はGoogleに移籍したが、残り4名はRed Hatに移籍するというニュースである。

 改めて説明するまでもないかもしれないが、Sambaとは、WindowsとLinux間でのユーザー認証やファイルや印刷機能の共有をするためのコンポーネント開発を行っているプロジェクトである。こうしたSambaの機能を必要不可欠としている企業系Linuxベンダーも多いが、それゆえにMicrosoftによる特許訴訟の最大のターゲットであるとも見なされている。

 実際、以前に今回と同様のニュースとしてアリソン氏の離脱劇がちょっとした旋風を巻き起こしたことがある。それというのも同氏はかねてよりNovellとMicrosoft間の提携についての反対意見を公式に表明しており、提携の再考を求めるNovellへの意見書を提出したSambaチームの一員だったからにほかならない。

 ところが今回の件についてRed Hat側に問い合わせたところ、Novellから移籍した人間などいないというのだ。またわたしが取材した限りにおいて、Samba開発チームの主要スタッフからは、NovellからRed Hatに移籍した人間に心当たりはないとの返答が返された。そしてNovellで広報担当を務めるケバン・バーニー氏の説明に従うならば、結局のところ問題の記事そのものが誤報であったということになる。

誤報の詳細

 先の「Computerworld」の記事であるが、これは「W.R. Hambrecht」のアナリストであるロバート・スティムソン氏が記したRed Hatの経営状態に関する複数の記事からの引用をしており、Samba開発陣のNovellからの離脱という件については、当事者からのインタビューではなく、どうも2月5日付のリサーチリポートから引用しているようである。問題のリポートは「W.R. Hambrecht」のWebサイトからPDFファイルの形で入手できる。

 このリポートを実際に読んでみると「Investment Conclusion」および「Oracle and Microsoft Announcements a Non-Event So Far」で始まる2つの段落において「The Microsoft/Novell partnership has led to the hiring of roughly 80% of the original Samba development team from Novell」(MicrosoftとNovellとの提携により、NovellにおけるSambaのオリジナル開発チームの80%前後の人員を雇用する結果になった)と書かれている。

 おそらくこの記述が今回のうわさの出所となったのであろうが、そこに書かれている文面を改めて読み返してみると、具体的に何を意味しているのかいまひとつハッキリとしないのである。前後の話の流れからすると、NovellからRed Hatに移籍した80%の人員とはSamba開発者のうちのある一群(80% of some group of Samba developers)を対象にした話だと思われるのだが、それ以外の意味による解釈が絶対にできないという訳でもない。問題のリポートにはこれ以上の詳細は記述されておらず、「W.R. Hambrecht」側に問い合わせても返答をもらうことはできなかった。

 このリポートの情報ソースに関しては、Red Hatの幹部社員との懇談を基にしたと記されている。そこでこの懇談について、Red Hatの広報担当を務めるキャロライン・カスミエルスキー氏に問い合わせたところ、問題のリポートでは「Red Hatがアナリストたちに対して行った状況報告の内容が正しく表現されています」との返答が得られた。またその際にカスミエルスキー氏は「弊社Red HatではSambaメンテナのトップ5名中3名をスタッフとして雇用しています」と補足している。

存在しなかった一斉離脱劇

 このようにRed Hat側に関しては、今回の事実関係をより正確な説明によって明確化しようとしている姿勢が見受けられる。例えば先の補足で、スタッフとして雇用しているのは「top five」(トップ5名中)の3名という表現がされており、この点は「W.R. Hambrecht」のリポートにある「the original Samba development team」(Sambaのオリジナル開発チーム)と対照的である。また、NovellとMicrosoftとの提携の結果としてRed Hat側のSambaメンテナスタッフが増強されたかのようにとらえられる発言は、一切行っていない。

 「W.R. Hambrecht」側のアナリストたちがこうしたRed Hatとの懇談に関する話題を避けているのは、“NovellとMicrosoftの提携が直接的な原因となってSamba開発者がNovellから Red Hatに移籍した”というストーリーが、極めて初歩的な誤解に基づくものであった可能性を認識しているからだろう。そんな一斉離脱劇などはそもそも起こっていなかったのに、それが事実であるかのようなうわさが広まってしまったのである。

 Novellのバーニー氏によると、確かに最近スタッフの1人が離職したがアリソン氏ではない)、この件は同氏が知る限りにおいてMicrosoftとの提携に絡んでの出来事ではないとのことだ。「現在でもSamba開発者として数名のスタッフを雇用していますが、そのほかにも250名以上のエンジニアがフルタイムの仕事としてオープンソース系コミュニティーに貢献するコード開発に携わっています」

 Samba開発陣が一斉に離脱したという今回のニュースがここまで安易に事実だと受け止められた背景には、強い口調でNovellとMicrosoftの提携に異を唱えたSambaチームからの意見提出や、アリソン氏の離職という過去の出来事があったからに他ならないだろう。だが今回報じられた一斉離脱劇は、事実ではなかったのである。わたしが意見を聞いたSamba開発者たちは、いずれもその種のうわさへの関心が極めて低く、誰がどこで何をしているのかよりも、意識のより多くをコード開発に注いでいるよう感じられた。

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