ウェブを超えた仮想世界が及ぼす影響とは「Second Life」からの示唆 第1回

昨年から話題に上がる「Second Life」は、ウェブというプラットフォームを基盤としない新たなサービス。それは一体、どういうものか。そして、それが日本のデジタル産業の今後にどういう影響を及ぼすのか。

» 2007年02月20日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

 米国のリンデン・ラボが運営するインターネットサービス「Second Life」が話題だ。日本でも昨年夏ごろから話題になり始め、年末までにさまざまなメディアがこのサービスを取り上げている。インターネットが社会の基盤として定着し、新たな段階を迎えようとしている現代に、ウェブという確立されたプラットフォームとは異なる手法を用いた、新しいサービスが出現した意味は大きい。同時に、これは日本のデジタル産業の今後にも重要な影響を及ぼすことを示唆している。

「ポスト・ウェブ」を占う

 Second Lifeには2つの側面がある。一つはインターネット上のアプリやサービスを可視化するワールド、もう一つは従来のウェブに代わる新たなインタフェースである。後者は、厳密にはアバターや建物、道具などSecond Life内の個々のオブジェクトを指すことになるかもしれない。

 これらの側面から、このサービスの可能性が単なるオモチャにとどまらないことが分かる。検索やネット広告、EC、音楽・動画配信、ブログやSNSなどのCGM、あるいはオープンソースやクリエイティブコモンズといった、これまでウェブを中心にインターネット世界で発展してきたさまざまな手法やモデルを、ウェブとは異なるより高い次元のワールドとインタフェースによって、再構築する可能性を備えているからだ。

 従来の手法やモデルは、すべてSecond Life上に無理なく展開することができる。例えば、アマゾンや楽天のようなECサイトは、巨大ショッピングモールとして出店させることが可能だ。それが買い物の手法として使いやすいかどうかは別の問題だが、ウェブが提供する合理性とは別次元の――例えば「AIDMA」でいうところの注意や関心を喚起する手段のように――グラフィック表現がウェブを補完するものとして有効性を発揮するかもしれない。

 同様に、イーベイなどが展開する電子マネーやクーポンには、それらとの互換性の点が気になるものの、仮想通貨「リンデンドル」が存在する。グーグルについては、例えば立体地図と検索、広告を連動させる非常に強力な基盤技術が相当する。

 こうしてみると、大手インターネットサービス事業者の多くにとってSecond Lifeは魅力的な――あるいは敵対的な――投資対象と映るに違いない。

 Second Lifeが提示する仮想世界は、見た目の面白さや楽しさだけでなく、「ポスト・ウェブ」のインターネットビジネスの行方を左右する重要な要素をはらんでいる。

ビジネス創造の期待

 さらに、そのインパクトはサービスやソフトウェアの領域だけでなく、プラットフォームやネットワーク、デバイスなどハードウェアを中心とした領域にも広く及ぶことになるだろう。

 Second Lifeを楽しむには専用のクライアントソフトが必要だが、これを十分に動作させるためのPC環境には、現時点で最高速クラスのCPU、十分なメモリ、最新のグラフィックアクセラレーターなどが必須だ。最新型の家庭用ゲームマシンも動作環境として想起できる。ウェブやワープロなどのアプリを動作させるには、既に性能を持て余している感があるこの領域で、こうした手段がさまざまなサービスのインタフェースとして一般化していくことは、デバイスを供給する事業者にとって歓迎されるだろう。

 サービス側のシステムにとってもインパクトは大きい。巨大なサーバー需要については言及するまでもないが、注目されるのはそのビジネスモデルである。Second Lifeでは、自分の世界を構築する場として「島」を所有できる。島の購入には千数百ドルの初期費用と月々300ドルほどの管理費用が必要だが、島の所有者がそこでどのような活動やビジネスを行うかは、Second Lifeが定める「ビッグ・シックス」と呼ばれる約束を犯さない限り自由である。

 この「島を購入して運営する」という行為が、実はユーティリティ・コンピューティングと呼ばれる、サーバービジネスのモデルと同義であることにお気付きだろうか。最近になって、アマゾンが発表した仮想マシンとストレージのサービスが、ユーティリティーサービスの新たな展開を予感させたばかりだが、Second Lifeのスタイルはある意味で一層洗練されたサーバービジネスであるといえる(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十二回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

株式会社NEC総研 調査グループチーフアナリスト

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


(※)あるモノについて、知ってから買うまでにおける消費者のコミュニケーションの反応プロセス(心理的プロセス)を示すものとして、最も有名なもの。「Attention(注意)→ Interest (関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)」から成り、商売の基本とされる。
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