ベンダーを操り操られ、システム管理者の「駆け引き」女性システム管理者の憂鬱(2/4 ページ)

» 2007年02月23日 08時00分 公開
[高橋美樹,ITmedia]

 そんなある日、あるウイルスの侵入が確認され、早急に対応を取る必要に迫られた。当時、一般的な推奨事例に倣い、メールの入口となるメールサーバと実際にファイルを実行するクライアントPCでは、異なるメーカーのウイルス対策ソフトを導入するという二重のウイルス対策をとっていた。しかし、運悪くどちらのメーカーも未対応の亜種だったために、あっさりと社内LANへの侵入を許してしまったのだった。

 わたしは急いでメーカーへ連絡し対策を協議した。各メーカーへ検体を送り対応する定義ファイルの公開を待つ間、クライアント側に導入しているメーカーへ駆除ツールの公開時期を訪ねたときである。メーカーの担当者から驚きの一言が発せられた。

わたし:「いつごろ駆除ツールができるのでしょうか? 」

担当者:「今回のウイルスは国内ではまだ御社だけで発生しているため、駆除ツール作成の予定はありません」

わたし:「えええ? 先日発生したウイルスの亜種対応じゃないですか。それに、うちはこのウイルスのせいで社内のネットワークが麻痺状態なんですよ。感染したユーザーに手動でレジストリの復旧をしろと言うんですか? 」

担当者:「申し訳ありません。詳しくは申し上げられませんが、国内での感染がある範囲まで拡大したウイルスのみ、駆除ツール提供の対象になりますので」

折衝のための「裏の手」?

 これまでは、たまたま一般に拡散したものと社内での流行が一致していただけらしいのだ。そこで、はたと困ってしまった。向こうの方針に素直に従っては社内のこの混乱はなかなか収まらないだろう。セキュリティ部門という新しく立ち上がったセクションでは先輩社員の過去事例などもない。どうしたものかと考えあぐね、セキュリティ部門が立ち上がるまでは、メーカー折衝を一手に引き受けていた親会社の情報システム部員に相談を持ちかけた。

わたし:「今回のウイルスは、国内ではまだうちの社内でしか被害が確認されていないんですって。それだと駆除ツールは作れない、と向こうの担当者に言われてしまって」

部員:「え? そんなこと言ってるの。そういうときは、ソフトを換えないといけないかなあと言ってみてよ。うちの部長が怒ってると言ってもいいからね」

 ほほう、そんな裏の手があるのか。言われてみれば、このウイルス対策ソフトの社内でのユーザーはグループ企業も合わせて数万人にものぼる。これだけのユーザーがごっそりほかのメーカーに乗り換えるとなれば、さすがに担当者も慌てるだろう。

 虎の衣を借るようなやり方に少し居心地の悪さもあったが、この混乱を早急に解決するには、きれい事だけでは乗り切れないかもしれない。そう決意して、もう一度交渉のためソフトメーカーの担当者に電話をかけた。

わたし:「社内の混乱を早急に回避するためにも、やはり駆除ツールの作成をお願いしたいのですが」

担当者:「現在のところ、やはり御社からの発生報告がメインなんですよ。こればかりはなんとも」

 敵も相当手ごわかった。

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