大手企業が次々参入するバーチャルな世界の実態新3D仮想技術は社会革命をもたらすか

3DCGのオンラインコミュ二ティ「セカンドライフ」に熱い視線が注がれている。「次世代のSNS」「オンラインゲームの一種」「ユーチューブに続く注目サイト」などと紹介するメディアが多い中、単なる流行としてではなく、インターネットの後継、あるいはウェブ誕生以来のインパクトと見る向きもある――。

» 2007年02月28日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト編集部]

ゲーム、SNSではない3D世界が広がるのみ

 セカンドライフは、サンフランシスコに本社を構えるリンデン・ラボが開発した3次元仮想空間である。3DCGというと、MMOG(多人数参加型オンラインゲーム)のようにも思えるが、ゲームのようにシナリオがあるわけではない。また、日記を見せ合うだけのSNSでもない。オープンなプラットフォーム上に出現した、マンハッタンの3倍の広さを誇る、広大な土地があるだけで、そこで全てが思い通りに実現するというものである。住人(参加者)がアバター(分身)やファッションを自由に変え、土地を買って街をつくり、与えられたもう一つの人生を楽しんでいる。

 セカンドライフの商用サービスは、2003年6月に開始された。2006年1月時点で約10万人だった住人は、196万人へと激増(同12月13日現在)。その後も急増している。住人の平均年齢は34歳。女性4割、男性6割だ。

 リンデン・ラボの試算によれば、セカンドライフ内に存在する全てのコンテンツを実際にソフト会社で構築すると、人件費で4億ドル以上になる。セカンドライフでは、住人が参加費と土地代を払ってそのコンテンツをつくっているため、同社はコンテンツ制作コストを払うどころか、収入を得ているのである(ただし、3500台のサーバーの運営コストは負担している)。

コミュニケーションの新手段模索に活用

 セカンドライフの最大の特徴は、マーケットプレイスが機能している点だ。不動産業、ファッションデザイナー、ダンサー、建築家など、現実世界のプロがバーチャルな世界でもそのスキルを生かして活躍している。つくられたものには著作権が保証され、リンデンドルという仮想通貨で参加者同士が自由に売買できる。1日の通貨流通量は65万ドル。年換算で2億4000万ドルにも上る。これは、南太平洋のトンガ王国の国民総所得を超え、カリブ海のドミニカ共和国のそれに迫る額だ。

 セカンドライフでは、およそ1万人の住人が利益を得ているといわれる。不動産ブローカーのアンシェ・チャンはその象徴だ。ドイツ在住の34歳の女性は、土地の売買で年間2000万円を稼ぎ出し、2006年11月にバーチャル世界史上初のミリオネアとなった。また、バーチャルなアバターとして初めてビジネスウイーク誌(同1月号)の表紙を飾った。これにより、一躍セカンドライフに注目が集まった。

 セカンドライフでは島も所有できる。1区2万坪の島の価格は約20万円、固定資産税は月額およそ3万5000円だ。

 そして今、セカンドライフに企業の参入が相次いでいる。米トヨタは、新車のデザインコンテストを実施。サン・マイクロシステムズは、バーチャルカンファレンスを開催した。そのほか、日産、GM、インテル、IBM、アディダス・グループ、シェラトン・ホテルズ・アンド・リゾーツなども進出している。

 教育分野も活発だ。例えば、ハーバード大学は実物そっくりのキャンパスを設け、授業を動画で公開している。そのほか100以上の大学が進出を計画中だという。また、ロイターやCNET(シーネット)ネットワークスなどのメディアも支局を設け、セカンドライフ内のニュースや有名人インタビューを報道している。

 これらをもって、マスメディアからの広告費移転と考えるのは早計かもしれない。だが、IRやR&Dなどを手始めに、ユーザーとの新たなコミュニケーション手段をリサーチしている段階とも見ることができる(「月刊アイティセレクト」2月号のトレンドフォーカス「バーチャルな世界でもうひとつの生活を 新3D仮想技術は社会革命をもたらすか」を再編集した)。

※本文の内容は特に断りのない限り2006年12月現在のもの。

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