第3回 組織を変えるコーチング術、知っておきたい3つの法則現場で使えるコーチング術

企業内においては、個人に対するコーチングやビジネスコーチングでは解決できないパターンも幾つか存在する。今回は、組織にテコを入れる形のビジネスコーチングに必要な3つの法則について解説する。あなたの企業に照らし合わせてみてほしい。

» 2007年03月16日 10時30分 公開
[杉浦麻耶,ITmedia]

 前回は企業の中の個人におけるビジネスコーチングについて解説した。企業内では個人のコーチングスキルでは、解決できないようなパターンもある。社員一人一人は優秀なはずなのに、組織の中に属すると能力があまり発揮されなくなる、という場合。こういった際に必要になってくるのは、組織にテコを入れる形のビジネスコーチングなのである。

企業風土が生み出す人間関係

 上司との信頼関係を作ったり、部下の士気を活性化、対個人で成果を見たり答えを引き出したのが前回説明したビジネスコーチングであった。しかし、今回は組織である。目的に向かって組織をまとめ、部署や組織に対し成果や答えを引き出すことが必要である。

 企業において個人の意識というのは、企業全体の意向の影響を大きく受けがちである。つまり、企業が持つ問題を根本から解決しようとすれば、企業風土とも呼ばれる全体意識をコーチングによって改革せざるを得ない。例えば、研修や新たな手法を取り入れても、業績が上がらなかったり、組織が活性化しないのは、企業に問題があるからだ。「企業」という場所は、常にほかの同僚や上司を意識しながら生きていく場である。人は、周りから認められたい、企業で自分を成長させていきたい、と願うと同時に、他人の活躍をねたんだり、失敗をして恥をかきたくないと思う。

 こういった根底にあるのは「企業風土」である。本人は意識していなくとも、組織にとって、ときにはこの企業風土が目的遂行に大きな弊害となる場合が多い。個人ならたいして気にもとめない問題でもネガティブに考えてしまいがちなのだ。

 分かりやすい例としてお風呂にお湯をためていたとしよう。「半分」たまっている状態が客観的な事実だとする。しかし、この事実を「半分“しか”たまっていない」とネガティブに考える人もいれば、「半分“も”たまっている」とポジティブに考える人もいる。しかし、多くのケースにおいて、企業では前者の考えが主流となることが多く、どうしてもネガティブな空気が停滞しがちだ。さて、こうした空気をビジネスコーチングでどう吹き飛ばせるだろうか。

組織のビジネスコーチングの土台に必要な要素とは?

 ビジネスコーチングで組織を変革しようとする際に、ベースとして使われる幾つかの考え方がある。

 1つ目は、経済的成功の法則「85対15」の法則を基にしたものである。この法則は、カーネギー財団が、優秀な経営者やマネージャーを対象に調査した結果、彼らがどういったことにどれくらい意識を向けているかについて、ある程度の法則性が見られるというものである。

 これによると、優秀な経営者やマネージャーはその意識の実に85%を、メンバーのモチベーションや意欲を高めるといった、人材の能力を引き出すことに対して向けており、残りの15%が、問題の解決や技術的な観点ぬ向けられているという。これは実に示唆に富む法則ではないか。あなたが働く企業に照らし合わせてみてほしい。もしかしたら、あなたの上司は売り上げの達成や、目の前の問題を解決することに労力を費やしているのではないだろうか。そうした企業では、言葉悪く言えば、人材というのは専門的なスキルや技術を持っているとしても単なる駒でしかなく、その士気を引き出すことに時間や力を投資しようというマインドにはならないことが多い。結果、組織の改革はおろか、現場から優秀なアイデアや商品が生まれることは少ない。

 2つ目は、イタリアの経済学者のヴィルフレード・パレート氏が発見した所得分配の経験則「80対20の法則」だ。パレートの法則としてご存じの方もおられるだろう。この法則を用いた考え方は、所得に関する定義づけだけにとどまらず、さまざまなケースで幅広く用いられているが、基本的には事象には比率の数式的な法則があり、その割合は80対20で成り立っているという理解を持っておいてほしい。

 この法則に従えば、企業の売り上げの80%は20%の商品が稼いでいたり、80%の労力を費やしても売り上げから見れば20%の成果しか上げていないといったケースが意外に多いことがあなたの企業でも当てはまるのではないだろうか。前者の場合であれば、効率良く企業を成長させていくために、その20%の商品に対し人材や資金を集中させる、といった判断が成されるであろうし、後者でも効率化の観点から改善が求められるべきである。。

 最後に、管理職やリーダーの言動が部下に大きな影響を与えているという「波及効果の法則」。上層部に笑顔や活気が少ないと、メンバー間にもその思いは伝わっていくもの。結果、顧客に対しても同様に波及し、笑顔もなければ活気もない営業などが行われかねない。組織としてまとまった信頼感を固めるためには、部下の変化を待つのではなく、まず管理職からいい流れを作っていかなければならないのである。

 これらの要素を踏まえた上で、ビジネスコーチングをすれば企業自体が変わる。逆を言えば、これらの土台がないままコーチングをしても非効率的、変化はあまり期待できないといえよう。

少人数でも変化する企業組織

 上述した土台を意識したコーチングの具体的な例を挙げてみよう。組織の中から、勤続年数、役職、性別などは一切考慮せず、柔軟性があり仕事で自立心をもった人を3〜8人程度選出し、チームをつくる。その中で、組織を活性化させる方法やビジョン、問題の意識化をさせるなど全体に影響を及ぼす役割を担わせ、長期的なスパンで実行させる。統括する上司は、チームに対し全面的なバックアップをすることが必須条件だ。

 すると、どうだろう。その少人数のチームの人員がほかの社員に対しいい影響を与え、ひいては企業全体を良くしてくれる。全員に労力をかけコーチングしなくとも、組織は変化していけるのだ。当初、企業を変えるとは無理なことのように思うかもしれないが、ビジネスコーチングでは、ポイントを絞り企業の意識を変えていくことが可能なのである。ぜひ、企業に取り入れ活用したいものだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ