Red Hat Enterprise Linux 5投入と“リポジショニング”――新製品とサービスRed Hatの新展開

Red Hatが3月15日に発表した“Red Hat Enterprise Linux 5”。従来の「Linuxディストリビューション」という枠を超えて、エンタープライズ向けのソリューションスタックの土台となるRHEL5からRed Hatの新展開を占う。

» 2007年03月26日 08時20分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

 Red Hatは3月15日、北米、欧州、APAC(アジア太平洋地域)の3カ所で同時に記者発表会を開催し、全世界同時発表という形で同社のエンタープライズ向けLinuxプラットフォーム“Red Hat Enterprise Linux 5”(RHLE5)を発表した。同時に、エンタープライズユーザーを強く意識したサービスメニューの追加を行なっている。

Red Hat Enterprise Linux 5

 まず、中核となるLinuxプラットフォームのバージョンアップが行なわれ、RHLE5となった。さらに、上位エディションとして「Red Hat Enterprise Linux 5 Advanced Platform」も発表された。これは、従来のRed Hat Enterprise Linux ASの後継に当たるもの。Red Hat Asia PacificのPresidentのゲーリー・メッサー氏は、「Red Hat Enterprise Linux 5は、“オープンソースアーキテクチャーを通じて顧客に最大の価値を提供していく”という企業戦略を推進していく上での新たな基礎(cornerstone)となるものだ」と位置付けた。

メッサー氏 「Red Hat Enterprise Linux 5は、企業戦略を推進していく上での新たな基礎」とメッサー氏

 “Red Hat Enterprise Linux 5”は現行のESの後継で、明確に小規模サーバ向けと位置付けられる環境だ。それに対し、“Red Hat Enterprise Linux 5 Advanced Platform”(AP)は、エンタープライズ環境でミッション・クリティカル・システムとして運用することを想定した強化が行なわれている。上位バージョンというよりも、むしろ今後の主力製品はAPの方であり、Red Hatのターゲット市場がよりハイエンド方向にシフトしたと考えても差し支えなさそうだ。

 APでは、サポートするプロセッサ数が無制限となっているほか、クラスターやGFS(Global File System)に対応し、「大規模なクラスター構成で仮想化を活用するプラットフォーム」として利用されることを想定したエディションになっている。

サポート/サービスの強化

 また、今回の発表では単にLinuxディストリビューションのレベルにとどまらず、エンタープライズユーザーが抱える問題を解決するという、ソリューションプロバイダーとしての取り組みを強化してきている点もポイントだ。その一環として今回発表されたのが、「Red Hat Solutions」だ。これは、RHLE5をベースに、プロフェッショナルサービスやトレーニングなどを組み合わせたソリューションセットで、まずは「Red Hat Datacenter Solution」「Red Hat Database Availability Solution」「Red Hat High Performance Computing Solution」の3種の提供が開始された。

 Datacenter Solutionは、データセンターの展開(または既存のデータセンターからオープンソースベースのデータセンターへの移行)に必要なものすべてをパッケージ化したターンキーソリューションで、Red Hat Enterprise Linux 5 Advanced Platform上にシステム管理やプロビジョニング、高可用性、アイデンティティ管理といった各種の機能や、コンサルティング、トレーニングといったサービスをセット化したもの。小規模向けと大規模向けの2種類が用意される。

 Database Availabilityは、Oracle、Sybase、MySQL EnterpriseDB、DB2といった既存のデータベース環境をクラスタ化して高信頼性を実現するためのソリューションセット。High Performance Computing Solutionは、エンジニアや研究者、金融アナリストなどを対象に、高度な演算処理を可能とする環境を提供するもの。

 米Red HatのVice President, Enterprise Linux Platform Businessのスコット・クレンショウ氏はユーザーの声として「高価なソフトウェアが欲しいわけではなく、IT投資からより大きな価値を引き出したいのだ」と聞かされたと紹介し、それに応える体制ができていることを強調した。合わせて、CIOを対象としたある調査の結果、過去3年間でCIOが最も大きな価値を提供したと考えるベンダーとして、Red Hatが1位になっていることを紹介し、Red Hatがユーザーから高い信頼を勝ち得ているとの自信を見せた。

「ユーザーは高価なソフトウェアが欲しいのではなく、IT投資からより大きな価値を引き出したい」とクレンショウ氏
クレンショウ氏が示した調査結果。CIOに対するアンケートで、サポート品質に満足できる企業としてRed Hatが3年連続でトップにランクされたという

 また、サポートの強化策として、「Red Hat Cooperative Resolution Center」の開設も発表された。これは、Red Hatがパートナーと協力してユーザーにワンストップサポートを提供するもの。ユーザーが直面する問題の原因がRed Hatにあるのかパートナーにあるのかにかかわらず、Red Hatが窓口となって解決に取り組みむという。このサポートの提供により、ユーザーはサポート窓口のたらい回しといった目に遭うことはなくなる。

 さらに、日本国内での対応はまだ未発表だが、“Red Hat Exchange”(RHX)の提供表明も行なわれた。これは、Red Hatがユーザーやパートナーと協力して構成するソリューションスタックで、Red Hatが提供するインフラ層のソフトウェアの上にパートナーのビジネスアプリケーションを載せ、あらかじめ統合された状態で提供するというものだ。ユーザーに対しては、RHXはオープンソースのソフトウェアスタック全体を一括して購入し、一元的なサポートを受けられるワンストップの窓口として機能するという。

Red Hat Exchangeに参加が予定されるパートナー企業

 なお、RHXの提供に当たっては、Red HatがJBossを獲得したことも大きな意味を持っていると考えられる。アプリケーションサーバとして広範な支持を得ているJBossがRed Hatが直接提供するインフラ層のソフトウェアとして加わることで、パートナーはJBossの存在を前提としたアプリケーションモジュールの提供が容易になり、サポート体制も明確化できるはずだ。


 Red Hatでは、従来の「Linuxディストリビューション」という枠を超えて、エンタープライズ向けのソリューションスタックの土台としてRHLE5を提供する方向だ。次回は、Red Hatがどう変わっていこうとしているのかを、担当者の発言から紹介していきたい。

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