「明日から君が社長だ」――デスクにあった一枚のメモ「見える化」のためのITC活用(1/2 ページ)

高度経済成長の波に乗り、情熱と努力で会社を成長させてきた創業社長。その多くは強烈なカリスマ性で社員を引っ張る。しかしそのリーダーが会社を去った後、任された後継者に求められるのは「マネジメント力向上」であり、「経営の見える化」だった。そのためのシステム構築を影で支えた人物がいた。

» 2007年04月09日 07時00分 公開
[大西高弘,アイティセレクト編集部]

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 ITコーディネータ(以下ITC)は外部コンサルタントとして顧客企業と契約し、その会社のCIOに近い働きをする。参照記事

 会社が体質を変え、新しい組織に脱皮するとき、ITは大きな力を発揮する。もちろんただシステムを構築しなおせばいいのではなく、「どう変わりたいのか」を明確にした上で仕組みを変更していく必要がある。古い仕事のやり方をそのままシステムに置き換えるのでは意味がない。そこで、ITCが企業体質の改革にどう関わったのかを見てみよう。

「腕の良い町工場」から「組織力のある企業」へ

 埼玉県志木市の北光金属は電気製品や携帯電話などに使う電気接点用の貴金属クラッド材やロウ付け材料などの金属製品を製造する会社だ。

 創業は1968年。2005年の売上高は約30億円、従業員数は87名。本社以外に福島県にも製造工場を持つ。「ある日デスクに『明日から君が社長だ』という父のメモがあった」と代表取締役社長の斎藤宏通氏は語るが、それが99年のことだった。その時点で斎藤氏は同社に勤続23年のベテランとなっていたが、社長となってからは、「腕の良い町工場」から「組織力のある企業」への転換を目指してきた。

 斎藤氏は事業を引き継いだころの北光金属について次のように語る。

 「今でこそ会社の周囲は住宅が立ち並んでいますが、創業当時、周囲は田んぼしかなかった。金属加工の会社に技術者として勤めていた父が一念発起して作った会社です。モノづくりへの夢を実現するために作ったわけですね。おかげさまで技術力、製品の品質では評価をいただいてきましたが、私が引き継ぐ段階ではそれだけでは生き残れない状況になっていました」

 というのも、取り引き先からは次第に品質管理などについての情報開示が求められ、企業としてのマネジメント力を問われるようになっていたのである。

 「コスト管理はもちろんのこと、いつまでも町工場のままではいけない環境になってきた。組織として職位などを改めたり、製造の現場では整理整頓を徹底することから始めました。乱雑な現場ということではないのですが、現場で使う機械などは、父が自分で作り上げたものが多かったんです。だからなかなか捨てられない。社員も勝手に動かすことができなかった。こうしたところから改善に着手しました」(斎藤氏)

北光金属 代表取締役社長 斎藤宏通氏

創業者の逆鱗に触れたこと

 同社は中小企業基盤整備機構の専門家派遣制度を利用するなどして組織改革を進めている。現場、人事、品質などあらゆるフェーズからの改革で、複数のコンサルタントを入れて定期的に改革のスピードをチェックしている。

 「創業者である父は、外部からコンサルタントを招き入れたとき、どうして社長であるわたしがやらないのかと怒っていました。しかし創業者のカリスマ性は継承できない。客観的な専門家の目で多角的に問題を指摘してもらい、改革を進め、社員のやる気を引き出すのが一番だと考えたのです」と斎藤氏は語る。

 東北大学で冶金学を学んだ斎藤氏だが、創業社長である父のカリスマ性は一代限りものだと認識していた。

 「ゼロから会社を興した人と同じ影響力は持てないのです。だから会社としての組織力作りを自分の仕事だと考えました」と斎藤氏は語るが、そういう意味では、経営者として「何がしたいのか」、「何をしなければならないのか」という課題は明確だった。

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