情報の戦略的活用が日本企業の明日を拓く栗原氏に聞く「今年こそデータウェアハウス元年?」(前編)

毎年「元年」と言われながらも、なかなか浸透しなかったデータウェアハウス。だが、内部統制、そして情報の戦略的活用などの観点から、データウェアハウスは時代の潮流を乗り越えて、企業が取り組むべき重要課題の1つとなった。データウェアハウスの現状や日米比較、データマートとの違い、そして導入に必要なポイントなど、同分野の分析を長年にわたり続けてきた栗原潔氏に聞く。

» 2007年04月16日 10時00分 公開
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安易に構築したデータマートが乱立する現状

 市場の変化や顧客のニーズを素早く捉え、迅速にサービスへ反映させて提供する。こうした企業の俊敏性やリアルタイム性は、ネットワーク時代を生き抜くために必要不可欠な要素である。市場動向や顧客ニーズは、一般的に情報(データ)としてデータベースなどに格納される。これらデータを全社で共有して分析・活用できるよう一元管理するのが、「データウェアハウス」だ。米国では戦略的な情報活用の肝としてデータウェアハウスを活用する企業が多い。

 では、日本の場合はどうだろうか。ビル・インモン氏が1990年に同概念を提唱してから17年が経つが、企業に充分に浸透したとは言えないようだ。同分野に造詣が深いテックバイザージェイピー代表取締役の栗原潔氏に、ITmediaエンタープライズ発行人の浅井英二が、その原因や将来の展望などについて聞く。

浅井 データウェアハウスや意思決定支援システムという概念が日本に紹介されてから随分経ちますが、国内の現状はどのように分析できるでしょうか。

栗原 一般的に、ITにおける日米格差は2年程度と言われています。しかし、この分野においてはさらに大きな差を感じます。日本企業は米国企業に比べて、例えば銀行のオンラインシステムのような無停止性や信頼性などを考慮した業務系システムで、より高水準なシステムを構築する力があります。それが、情報活用となると途端に何歩も米国から遅れをとっていることが多いようです。

浅井 確かに、10年以上も前から毎年「データウェアハウス元年」と言い続けているにも関わらず、真の「元年」を迎えられていません。

テックバイザージェイピー代表取締役 栗原潔氏

栗原 ITの世界には幾つか永遠の課題があると思いますが、データウェアハウスやビジネスインテリジェンスなどの情報活用は典型的な課題の1つです。やらなければならない、しかし進まない。もちろん、まったく進んでいないというわけではありません。例えば、コンビニや通販などでは情報活用を上手に利用していると思います。ただし、こうした一部の業種業態で利用しているものも、データウェアハウスというよりデータマートになると思います。

浅井 データマートとデータウェアハウスの違いはどこにあるのでしょう。

栗原 データマートは特定分析アプリケーション向けのデータベースです。サーバやデータベース管理システム(DBMS)が比較的安価に入手できることもあり、部門ごとに構築する企業も多いのが特徴です。しかし、ガバナンスを確立しない状態で安易に構築できてしまうため、100や200とデータマートが乱立する事態に陥る危険性があります。こうした状態でも日々の業務に支障が出ないだけに、気付いたら管理し切れないまでに膨大化していたといったケースが少なくありません。

 一方のデータウェアハウスは、アプリケーションに対して中立なデータベースを提供します。要件ごとに構築しなければならないデータマートに対して、あらゆる要件に1つのデータベースで対応できます。

浅井 では、データマートを統合するとデータウェアハウスになるのでしょうか。

栗原 データマートが大きくなったものがデータウェアハウスと思われがちですが、実は違います。データマートは2種類あり、1つは先ほど説明したような部門の目的ごとに作成される「独立型(Independent)データマート」です。すぐに導入できる反面、ソースからデータを抽出、変換、ロードする(ETL:Extract, Transformation and Load)処理が重複するなどの問題があります。もう1つは、データウェアハウスのサブセットとして作成される「従属型(Dependent)データマート」です。データウェアハウスのデータを利用するので、データを一元的に管理でき、一貫性のある情報活用モデルを構築できます。

浅井 つまり、問題はガバナンスされていない独立型データマートの乱立であり、それを避ける上でも統合運用できるデータウェアハウスを導入すべきということですね。

栗原 そのとおりです。多くの要件にひとつのデータ設計で対応できることは、意思決定支援システムにおいて重要な要素です。意思決定支援アプリケーションは、構築した時点ですべての要件が出るものではありません。後にまったく想定していなかった使い道が出てくることもあります。そんなとき、データベースを変更せずに対応できるデータウェアハウスは、ある意味理想的な形と言えます。

普及の足かせは「データ=企業資産」「コストの正当化」ができないこと

 しかし、理想的であるにもかかわらず、日本での浸透が進まないのはなぜだろうか。

栗原 日本で浸透しない理由は2つあります。1つは、設計の難度が高いことです。特定アプリケーションだけを意識すれば良いデータマートは、設計が楽で短期間で導入できます。しかし、アプリケーション中立のデータウェアハウスはある程度の正規化された設計が必要で、ガバナンスをはじめとする戦略的な情報活用方針をあらかじめ確立する必要があります。データは企業の資産であり、戦略的武器であるという企業文化が根付いていなければ難しい課題です。日本企業では、データは情報システム部門が管理するものであり、業務部門とは関係ないという認識が根強くあります。その結果、全社的なデータの標準化ができず、データウェアハウスの構築につながらないということです。

 もう1つは、データウェアハウスシステムにかかるコストを正当化できないことが挙げられます。業務の効率化や典型的なOLTP(オンライントランザクション処理)系のアプリケーションであれば、人件費の削減などで投資の正当化がしやすいのですが、データ分析にかかるコストは正当化が難しいという問題があります。

ITmediaエンタープライズ発行人 浅井英二

浅井 そうした「データ=企業資産」と考える企業文化や、情報活用に対する戦略的な視点があることが、米国におけるデータウェアハウス普及の背景にあるのですね。

栗原 実際に米国では、データを扱う専門家として「データアドミニストレーター」という肩書きが存在するくらいです。これは、運用管理者や情報システム部門の人間ではなく、データを扱う専門家で、設計や標準化をする役職です。もっとも、本来のアプローチをとる米国企業にも課題はあります。特にグローバル市場で展開する企業は、パフォーマンスやデータ鮮度の理由からデータマートを乱立させてしまうケースがあります。例えば、ある米国のグローバル企業で、顧客から世界各地の製品別売上情報を求められたとき、売上情報がデータマートで分散的に管理されていたため、レポートをまとめるのに相当な時間と作業量がかかったという話があります。

浅井 グローバル企業の場合は地域ごとに売上集計額の通貨が異なるなど、データの一元化や全体最適が難しいですね。

栗原 そういった課題も、今後はデータウェアハウスで解決される方向に進んでいます。

データウェアハウス元年への「真」の第一歩

 では、日本市場で浸透するための起爆剤はあるのだろうか。

栗原 1つは、ネット企業の台頭があるでしょう。ネット企業は、情報や分析力を戦略的武器として活用します。こうした企業が既存企業に危機感を与えることで、ある種ショック療法的な刺激を与え、データウェアハウス導入の方向へ進展できるのではないかと期待しています。

浅井 内部統制に伴うデータ統合やシステム統合なども、きっかけになるのでしょうか。

栗原 今年はJ-SOX法の準拠が最優先課題となりますが、来年以降はより広い内部統制の観点からプロセスやデータの標準化に取り組めると思います。さらに、2007年問題などに備えて、ノウハウをシステム化する必要性も見逃してはなりません。

浅井 ヒューマンノウハウとは別に、システム化できるノウハウはデータウェアハウスなどで集約することが重要ですね。いつまでも生き字引に頼る経営では、最終的に行き詰まるでしょう。また、就労人口の減少が予想される今だからこそ、日本企業は生産性を高めるべく、データウェアハウスの構築へ一歩踏み出さなければならないのかもしれません。

栗原 データウェアハウスでは、「Think big, start small」という概念があります。これは、大規模システムを最終形に描きながら小さいところから始めようという意味です。しかし、小さく始めたままデータマート乱立に至っては意味がありません。小さく始めて大きく育てるのではなく、大きく育てることを想定して小さく始める。企業の成長力を高める上でも、データウェアハウスによる戦略的な情報活用やノウハウのシステム化を今こそ始めるべきではないのでしょうか。

 次回後編では、情報活用で企業競争力向上を図るための、データウェアハウス導入時の注意点について聞く。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年5月31日