データウェアハウスこそ企業情報活用の新たなパラダイム栗原氏に聞く「今年こそデータウェアハウス元年?」(後編)

毎年「元年」と言われながらも、なかなか浸透しなかったデータウェアハウス(DWH)。データマートが乱立する現状から抜け出し、ガバナンスを伴って統合運用できるデータウェアハウスを導入すること。企業が俊敏性を備え、成長力を高めていくためにも、データウェアハウスによる戦略的な情報活用やノウハウのシステム化を今こそ始めるべきだ。では、実際の導入におけるポイントはどこにあるのか。DWH分野の分析を長年にわたり続けてきた栗原潔氏に聞く。

» 2007年04月20日 10時00分 公開
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成功のキーワードは「全体最適」「リアルタイム」「イベントドリブン」

 前編でも触れたとおり、日本市場で見ると、データウェアハウスはまだ充分に浸透したと言えないのが現状だ。しかし、内部統制に伴うデータ統合や、リアルタイムの情報提供で勝ち組となったネット企業の成功などが追い風となり、今年はエンタープライズデータウェアハウス(EDW)への取り組みが本格化しそうだ。前回に引き続き、同分野に造詣が深いテックバイザージェイピー代表取締役の栗原潔氏に、ITmediaエンタープライズ発行人の浅井英二が、EDWを実現するためのポイントや注意点などについて聞く。

浅井 実際に企業がデータウェアハウスを導入する際に、どのようなポイントを重視すべきでしょうか。

テックバイザージェイピー代表取締役 栗原潔氏

栗原 データウェアハウスを含む意思決定支援システムを構築するには、「全体最適」「リアルタイム」「イベントドリブン」という3つのコンセプトが重要です。まず、全体最適とは拡張性の高いプラットフォームを選択し、データモデルを正規化することで実現します。アーキテクチャーを変えずに対応できるプラットフォームを選択することで、アプリケーションに中立なデータウェアハウスを構築できます。

浅井 あらかじめ拡張性を意識したプラットフォーム選びが必要ということでしょうか。

栗原 データウェアハウスは分散処理がしやすく、大規模並列処理が可能という特徴があります。ですので、小さなサーバをラックに追加していくような形で拡張できるため、その点に関しては意識しなくても大丈夫でしょう。そのかわり、特定アプリケーション向けではなく正規化されたデータモデルをベースに中立性を維持する仕組みなので、最適化しながら適切なパフォーマンスを出せるプラットフォーム選びがポイントとなります。

浅井 ベンダー選びも重要となりそうですね。

栗原 総合的なサポート力やコンサルティング能力、設計能力などを持っているベンダーを見極めることも、データウェアハウス成功の秘訣です。

浅井 2つ目のリアルタイムは、市場に素早く対応するための俊敏性ということでしょうか。

栗原 リアルタイムとは、適切な情報を適切なタイミングで顧客に提供するためのリアルタイム性を確保することです。実現するには、詳細までドリルダウン可能なデータ解析能力や並列処理、ローディングのタイミングなどが必要となります。

浅井 データ解析というと、これまでは専門家が実施するものでしたが、今はアプリケーション内にさまざまなインサイトが取り込まれ、その場その場でリアルタイムに顧客へ提供することが求められるようになりました。

栗原 Webサイトの自動レコメンデーション機能は、良い例です。また、買い物するたびにレコメンデーションの内容が変化したり、掲示板の書き込みに応じて表示広告が変わったりするのも、リアルタイムにデータ分析できるからこそのサービスと言えます。ただし、すべてをリアルタイムにするのではなく、企業の競争力に結びつくデータを見極めてリアルタイム化することが肝要です。

浅井 スパムのようにとりあえず情報を送り続けるのか、それとも適切な情報を送るよう改訂しながら発信するのかによって、競争力は異なってきますね。しかし、これを実現するにも技術的なハードルがありそうです。

栗原 最大の課題は、データのローディングとETLでしょう。元々、データウェアハウスは静的なデータベースで、データのローディングは夜間バッチ処理で行うのが基本でした。しかし、今は日中はもちろんのこと、場合によってはリアルタイムで実施することが求められています。こうしたローディングはシステム的に改善されつつありますが、ETLなどリアルタイムデータのクレンジングをどう処理するかはユーザーにかかってきます。

浅井 ローディングも重要ですが、データをどこから引き出してどのように統合するかといった、データ統合の最終形を見据えた検討も必要ということですね。

栗原 それから、システム的に高可用性を確保することも忘れてはなりません。データウェアハウスがリアルタイム化し、業務の一部として稼働するようになれば、無停止性は避けられない課題となります。

浅井 以前は基幹業務系と情報系とを分けて構築し、情報系は停止してもよいという概念がありました。それが、データウェアハウスを導入することで双方の無停止性を維持するという、発想の切り替えが必要になりますね。

データウェアハウスが新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけに

ITmediaエンタープライズ発行人 浅井英二

浅井 最後のポイントであるイベントドリブンとは、どのような意味でしょうか。

栗原 イベントドリブンは、簡単に言うとBIとデータウェアハウスを融合させたプッシュ型システムのことです。人間が変更内容を随時チェックするのではなく、変更があればシステム側が通知するという仕組みです。例えば、オークションの入札価格が更新されたときにメールで通知するのも、シンプルなイベントドリブンに当たります。

浅井 例外的な処理や人が判断しなければならない問題を、システム側でプッシュするということでしょうか。

栗原 情報量は増えることがあっても減ることはありません。人間がそれをすべてチェックすることは、到底無理な話です。その意味で、変更や問題が生じたときに通知するというBI的な発想はデータウェアハウス構築において重要なコンセプトになります。将来的には、BIとデータウェアハウスの融合が起こってくるのかもしれません。

浅井 情報をプッシュするということは、先に述べたリアルタイム性とも深い関わりがあるように感じます。

栗原 それこそがデータウェアハウス活用の意義を示すものだと思います。これまではトランザクション系システムと分析系システムが個別に構築されており、なかなかリアルタイムに情報をプッシュすることができませんでした。それが、両者がシステム的に統合されるようになった今、情報活用の分野に新たなパラダイムが生まれたのです。ビジネスチャンスの観点からすれば、情報系とトランザクション系の境界領域に新たな価値を見出すことで、他社に先んじた付加価値を顧客に提供できることになります。これは、企業にとって大きな強みとなるでしょう。

浅井 ある企業が一日遅れの情報しか提供できず、もう一方はリアルタイムで提供できるとなると、当然顧客は後者を選びます。ストレージも低価格化し、モジュラー構造によって以前よりも拡張性が確保しやすくなりました。こうした技術的な進化を活かさない手はありません。

栗原 ただし、リアルタイム性を求めるあまり、パフォーマンスを確保するためにデータマートを乱立させないよう注意が必要です。データマートは、企業ニーズに応じてコントロールできる範囲で構築するのであれば問題ありません。不用意なデータマートの乱立を招くことなく、的確なガバナンスの下で意思決定支援システムを構築する。それが、成功の鍵です。

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提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年5月21日