マイルも貯まる「回路図コミュニティー」――エンジニアの腕を磨くネット道場もっと広げようSNSの可能性

プリント基板ネット通販サイト「P板.com」を運営しているインフローがSNSサービスを開始した。ビジネス拡大の戦略ともいえるが、基本的には「より良い回路図作りを目指すコミュニティー」だという。

» 2007年04月30日 13時51分 公開
[大西高弘,アイティセレクト編集部]

 インフローは小ロットの電子部品をネットで注文を受けて販売している。顧客から回路図のデータを送ってもらい、プリント基板を作成し納品するという「プリント基板ネット通販」というビジネスである。「P板.com」(ピーバンドットコム)という通販サイトを運営している同社は、2002年の創業以来、順調に業績を伸ばしてきたが、最近ではプリント基板作成だけでなく部品を乗せて製品化するサービスも始めている。注文は1枚から受け付けており、そのあたりも顧客から重宝がられる所以だ。

 同社は4月2日から、新たに「@ele」(アットマークエレ)というSNSサービスを開始した。代表取締役の田坂正樹氏は次のように語る。

 「専門雑誌や書籍、Webサイトなどに回路図のデータは散在しています。これは私がインフローを立ち上げる前からずっと変わっていない。同じような回路図を別々に作成しているより、誰かの成果を活用して、さらに新しいものを作るスピードを上げるお手伝いができればと考えた」

インフロー 田坂正樹社長

 電気製品の回路図は専門雑誌などで読者が投稿するなど、情報交換の発想は昔からあるという。これをSNSという情報インフラに載せてデータベース化し、求めている回路図を検索しやすくするというものだ。

 利用の仕方は一般のSNSと変わることはないが、回路図の画像データなどを登録するときは、部品型番やメーカー名などを入力し、登録者がコメントを入れる。現在、順調に登録者は増え続けており、当初の目標だった1000ユーザーの登録者数は間もなく達成する見込みだという。

 「@ele」はSNSの基本機能であるコミュニティー作成や日記、コメント登録などもできる。こうした機能を使ってユニークな取り組みをしている人たちが、互いにコミュニケーションをとり始めているという。

 「エンジニアの人たちが趣味で作った自作の部品でいろいろな遊びをしているのを読んだりすると、面白いですよ。『そんなことができるのか、じゃあこんなことは?』というように話が一気に広がっていくんですね」と田坂氏は話す。こうしたやり取りの中に新しいビジネスの種が隠れているかもしれない。

 利用者の市場規模については、20万人程度を想定しているという。専門雑誌なども読者層をその程度に見ているからだ。

 「一般の企業に所属するエンジニアだけでなく、学生や個人でビジネスとして回路図設計をしている人たちなどを合わせると、もう少し市場規模はあるかもしれないですね」と語る田坂氏だが、「@ele」のユーザーが「P板.com」の新しいユーザーになることについては、「期待はしていますが、まずはデータベースとして充実させることが優先課題」と慎重だ。

 回路図を登録するユーザー、またそれに対してコメントなどを送るユーザー双方に対して、ポイントが加算されていき、マイルが蓄積していく仕組みも間もなく始まる。目安として100種類の回路図を登録すれば、1万円相当のマイルが貯まるという。また、引き合いの多い、人気回路図に対しては、「P板.com」でキット販売していくことも計画しており、その際には回路図制作者にも利益還元されるという。

 「より良い回路図が作られる環境を整えるきっかけになればと考えている。個人が多くの人に自分が作成した回路図を見てもらうことで、正当に評価してもらえる場があれば、モチベーションがぐっと上がるはず。例えば理工学系の学生であれば、自作の回路図を登録しておけば、履歴書にプラスしたアピールにも役立つだろう。他人の指摘がレベルアップにつながり、他人の作った回路図を見ることでレベルアップも図れる。エンジニアが腕を磨き合う道場のようなもの」と田坂氏。

 企業に所属するエンジニアが回路図を登録する場合、著作権などの問題には触れないのだろうか。この疑問に対して田坂氏は、「基本的には個人のリテラシーに任せる形を取っていく。ただ、専門雑誌やWebサイトなどを見てもわかる通り、回路図の開示は基本的にオープンに行われている。常識に照らし合わせて運用してもらえれば問題はない。もちろん問題の芽になるような動きは当社でしっかりとフォローしていく」と話す。

 インフローのこうした取り組みは、エンジニアを多く抱える製造企業なども参考になるのではないか。また、数100万単位の潜在ユーザーがいなくても、こうした「コアなテーマ」でSNSを活用することが今後増えてきているのは確かだ。所帯は小さいが、中は熱気の充満したコミュニティーがこれからも多数出現してくるかもしれない。回路図という成果物と限られたテーマがミックスすることで、コミュニティーの熱はぐっと上がるということだろう。

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