アドビ、PDFで製造業標準ドキュメントを狙う機運は

Adobe Acrobat 3D 8日本語版が発表されが、その仕様から製造業における標準ドキュメントフォーマットとしての意気込みはかなりのもの。なぜ、製造業を狙うのか。

» 2007年05月21日 14時59分 公開
[ITmedia]

 製造業におけるCAD/CAM利用率は、顕著な伸びを見せている。利用分野としては機械、建築、電気が主なところだが、特に機械分野におけるCAM実現は、大量生産が前提となるためひと握りといえるかもしれない。しかし、設計支援ツールであるCADは、少人数な中小企業でも利用されるまでになり、DWGやDXFなどが枯れたCADフォーマットとして知られている。

 特に、機械、建築で中小企業におけるほとんどのCAD利用の現場では、設計図面を製造段階で、紙、もしくは三面図データの参照で製作をするだろう。オートデスクを始めとするCADソリューションをチーム開発の基盤として導入できればよいが、そのような現場ばかりではない。

 このため、設計段階の3Dモデリングデータを製造の段階でも共有したいと考えた場合、共通のアプリケーションを使っていることが前提となり、設計者以外がCADアプリケーションをPCにインストールしていなければならない。これは多くの現場で現実的とならず、CADアプリケーションよりも比較的廉価であるPRCデータビューアなどを製品化するベンダーが多いのが実情だ。

アドビが狙う製造業共通のドキュメントフォーマット

 Acrobatを販売するアドビ システムズは、製造業における共通ドキュメントフォーマット確立を目的として、「Acrobat 3D 8日本版」を6月中旬から出荷開始する。

 同製品は、前バージョンAcrobat 3Dで確立された3D描画をアップデートし、3D CADでメジャーなPRCフォーマットサポートなどを行ったものだ。製品製造情報(PMI)の表示や、国際標準のCADフォーマット「STEP」、米国標準の「IGES」などもサポートし、業界標準を狙う意気込みが感じられる。

 従来バージョンのAcrobat 3Dでは、3D描画が“可能”というものだった。一方、今回発表されたAcrobat 3D 8日本版では、上記のサポートにより寸法表示やマテリアル表示などを制御することができるようになった。このため、設計段階の3Dデータ品質を生かし、また、必要な属性情報を限定することで高圧縮なPDF生成を可能としている。オプション設定により、PRCデータを1/100までにPDF圧縮可能だという。

 このPDFは、当然ながらフリーで配布されているAdobe Readerで表示することができるため、幅広い関係者へと3Dイメージを意図した品質で配布可能となるわけだ。従来バージョンと同じく、アニメーション表示も可能であり、製品サポートのメンテナンスドキュメントとしても価値を見いだせるだろう。例えば、車の整備士がパーツの分解方法が分かりづらいと思った場合、アニメーションでその手順を知るといった具合だ。

 「従来バージョンでは製造業での利用よりもクリエイターの作品閲覧で3D描画が注目された。しかし、今回のバージョンでは、製造業の利用に応えることができるほど拡張を行っている」。そう、アドビ、ギャレット・イルグ代表取締役社長は語る。

ビジネスワークフローもサポートするAcrobatへ

 従来までのドキュメントフォーマット「PDF」を通して見たAcrobatは、ドキュメントビューアとしての側面が強かった。しかし、Acrobat 7以降はビジネスワークフローを包括する機能が多数搭載されており、新たな局面へと向かっている。

 現在では、Webサイトからのリンク状況を見ても多くのドキュメントがPDFを採用していることが分かる。事実上、レイアウトを考慮したドキュメントでは、PDFがデファクトと言っても過言ではないのが実情だ。

 しかし、「Adobe LiveCycle」に代表されるよう、アドビではサーバソリューションとの統合もロードマップの中に含まれていることも確かなところ。そのような中でも、Adobe Acrobatのパッケージでは、エンドユーザーの利用シーンを中心と考えていると同社はコメントしている。

 むやみにサーバソリューション主導(移行促進)とは考えず、Adobe Acrobat 7以降で取り入れられたビジネスワークフロー実現にファイルサーバを介した機能を採用するなど、敷居の低さを重要なものだと考えているようだ。

 Adobe Acrobat 3D VERSION 8の価格は、通常版が13万5870円、Acrobat 3Dからのアップグレード版が4万320円。出荷時期の6月中旬からは、無償体験版もWebサイトから提供される。

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