Googleを衝き動かすOSSの影響力LinuxWorld Conference & Expo/Tokyo Report

やや物寂しい印象がある「LinuxWorld Conference & Expo/Tokyo 2007」が開幕した。初日の基調講演ではGoogleでオープンソースプロジェクトに従事するグレッグ・スタイン氏が、ソフトウェア産業におけるOSSの影響力を語った。

» 2007年05月30日 20時51分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 記者が「LinuxWorld Conference & Expo/Tokyo」を初めて取材したのは2001年だったように記憶している。それから毎年この時期になると東京ビッグサイトに巡礼しているが、今年もそんな時期がやってきた。「LinuxWorld Conference & Expo/Tokyo 2007」の開幕である。

 LinuxWorldを取材するようになってまだ数年だが、まだまだ企業におけるLinuxの利用が少なく、献身的なGNU/Linux擁護者が集った2001年、大手ベンダーがこぞってLinuxソリューションを披露し、ビジネス色が強くなった2005年などと比べてみても、今回のLinuxWorldはかなりさみしいものがある。Oracleをはじめとする大手ベンダーのうち数社はブースを構えておらず、また、「Business Blog & SNS World 07」というイベントとの併催となったため、LinuxWorld自体のフロア面積としては、前年の半分程度にまで縮小しているのだ。日用品の展示会に興味を持つ人が少ないように、Linuxもコモディティ化したことがその理由であるとポジティブに考えることもできようが、何ともさみしいものがある。

 今回のLinuxWorldで基調講演を務めたのはGoogleでエンジニアリング部ウーバー テック リードとして「Google Code」などのオープンソースプロジェクトに従事するグレッグ・スタイン氏だった。同氏はバージョン管理システム「Subversion」の開発者であり、Apache Software Foundationの議長でもある。Googleにはスタイン氏のほかにも、Pythonの開発者であるGuido van Rossum氏、Linuxカーネル開発の重鎮であるアンドリュー・モートン氏、日本では鵜飼文敏氏など多くの著名なオープンソース開発者を雇用している。最近では、NovellのLinux Desktopプロジェクトのチーフアーキテクトだったロバート・ラブ氏などもGoogleに移った一人だ。

スタイン氏 「今後、多くのソフトウェアはこうした許容的なライセンス形態を採用するだろう」とスタイン氏

 同氏が語ったテーマは「ソフトウェア産業におけるOSSの影響力」。同氏は冒頭、1991年に最初のバージョンが公開されたLinuxカーネル、1995年にNCSA httpd 1.3に対してパッチを当てた形で公開されたApacheのこれまでを振り返った。お互いがお互いを必要としながら成長を遂げ、それがWWWの成長も促した部分があると同氏は語る。MySQLやMozillaの登場も同様に、(それまでエンタープライズ市場などでは当然のように考えられていた)購入せずに使えるというシンプルな事実が、市場に新たな選択肢を与え、ソフトウェア業界を変化させていったことを付け加えた。

 その成功要因として、創造性を生かせるフリーなプラットフォームであったことのほか、特に重要な点としてライセンス形態を挙げるスタイン氏。ライセンス形態については、プロプライエタリなライセンス形態、もしくはGPLと比べた場合でさえもApache Software License(ASL)が許容的であることを説明した。

「(GPLは)オリジナルのソースコードに変更を加えた場合、それを公開する必要がある。OSSであっても、当然ながら市場原理にさらされるわけだが、そのとき決め手になるのはライセンスの内容である。ことデベロッパーに関しては、ASLのようなライセンス形態がもっとも自由が確保される。今後、多くのソフトウェアはこうした許容的なライセンス形態を採用するだろう」(スタイン氏)

 とはいえ、すべてのソフトウェアがそうなってしまうのではないという。例えば、自身が所属するGoogleやSalesforceなどホステッドサービスを提供する企業や、ゲームや税務処理を行うためのソフトウェアなどコンテンツ自体に価値があるソフトウェアはこれに当てはまらず、Windowsのように非常に複雑なソフトウェアも“しばらくは”生き残るだろうとした。

 また、バージョンごとの変化やもろもろの依存関係など、OSSも例外なく複雑化していくことになると同氏は話す。このため、例えばインストレーションであったり、設定であったり、カスタマイズといったアシスタンス的な部分がサードパーティーなどから有償で提供されるモデルが今後ますます増えるだろうという。スタイン氏は、開発面では今後、ライセンスをトラッキングできる必要性があるとし、そうした機能をGoogleが提供していることに触れるなど、Googleがこうしたサポートサービスを提供する可能性を示した。

 「LinuxとApacheがたどってきた軌跡は、将来へのシグナルにほかならない。起こりうる劇的な変化への対応の心構えを持ってほしい」とスタイン氏。続けて、「エンジニアであれば、オープンソースコミュニティーへ参加し、OSSの知識を高めてほしい。マネジャーであれば、OSSが自身の責任領域にどういった影響を与えうるかを学び、コミュニティーとの付き合い方など、自らの企業に利益を生み出すために戦略的な選択をしてほしい」とアドバイスを送った。

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