後編 「今の成長の延長線上で伸びる」というのは楽観的では?モバイルはいかに新時代を切り拓くか

モバイルが現在の成長率を今後も保つということには、懐疑的にならざるを得ない。そこに見えるのは、PCとの境界の消滅なのかも――。

» 2007年07月04日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

 市場について何かを語る際は自身の実体験が重要、というのが筆者のモットーであるが、モバイルに関しては実はあまり偉そうなことはいえない。8年前からプライベートで使い続けているのはPHSで、メールとブラウザの機能がついた端末を買ってまだ1年半である。天気とか乗換案内などを見るのがほとんどで、メールはごく親しい一部の人とたまにやり取りする程度だ。

 モバイルインターネットにおけるサービスビジネスの可能性について、以前からいろいろと言及されているのは知っている。しかし、別にモバイルを毛嫌いしているわけではないのだが、その実現性や成長性に対しては、常にある種の疑念のような思いを振り払えないでいた。そしてそのことは、現時点においても実際のところあまり変わっていない。

モバイルの成長性に対する疑問

 モバイルサービスに関連する指標は確かに成長した。業績を大きく伸ばした企業もある。しかしモバイル広告やECなどの市場規模はまだ非常に小さく、インターネット市場全体の10%程度にすぎない。そして今後は、現在の延長線上に沿った成長だけではあまり楽観できないというのが、筆者の見方である。

 その根拠は、主たる利用者の人口構造と、現在の携帯電話端末が持つ機能的な限界という2点にある。いまさら目新しい話ではないかもしれないが、深く議論されているようにも思えない。ただ、モバイルが従来の延長で成長する根拠として、携帯電話で1500字のレポートを書いたという大学生の話やおふろに入っている時でも欠かさずメールを打つ女性といった例を挙げるよりはマシだろう。

 携帯電話の小さな画面に配信される広告をどこまで増やせるのかという疑問は、単に利用者が増えることで解決できる問題ではないだろう。また、利用者の主力層が購買力の低い若年層であることは事実だが、若年層にも根強いPC需要があるのもまた事実だ。別の言い方をすれば、いわゆるケータイ世代は決してPCを無視しているわけではなく、携帯電話とPCの関係をより深く考えることができる世代でもあるのだ。

消える境界が新たな成長基盤に

 2006年のインターネット市場に感じられるのは、一言でいえば従来路線での成長に限界が見え始めたということだ。70%近くに達したインターネットの人口普及率にはほぼ天井が見えた。PCや携帯電話などの端末市場については、非常に厳しい結果となった。そしてECやネット広告を提供する大手企業の業績も、定量的に拡大してはいるものの、これまでの延長線上における今後の成長には不安を残す結果だったと受けとめている。

 モバイルで躍進した企業は早くも現行のモバイル市場が持つ限界に直面している。大手企業もモバイルに活路を見出そうとしているものの、従来の事業をそのままモバイルで展開する一筋縄では、すぐに限界に突き当たることを自覚している。

 前編(6月28日の記事参照)で触れた、成長に向けた新たなステップとは、PCとモバイルを分けて考える時代はそろそろ終わりではないかということだ。そして、それは決してサービスレベルの話にとどめず、ネットワークインフラや端末に至る全てのレイヤに共通するテーマとしてとらえるべきである。

 例えば、最新のPCと携帯電話を比較すると、大きさや形状に違いがあるとはいえ、ワンセグや音楽などのAV機能やデザイン性重視の傾向、シニア層を意識したインターフェースなど非常にニーズが似通ってきている。スマートフォンが再び脚光を浴びているのも、そうしたトレンドを受けた一つの兆候だろう。ネットワークの世界でもFMC のような概念が少し前から叫ばれているが、現実のサービスとして成功しているものはまだ少ない。

 こうして(前編も含む)日本の状況を中心にひと通り考えをまとめたところで、同じ視点から最近の海外動向を見てみると、実はグーグルやアップルなど海外の大手ベンダーも同じ方向に動いてきているように思える。アップルの「iPHONE」の、発売前にサイトで公開されていたTVCFを視たとき、筆者が最も強く感じたのは、これがモバイルとPCの融合を最も象徴しているということだった。日本のモバイルだけがいつまでも市場の最先端ではないということでもある(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十七回」より。ウェブ用に再編集した)。

※ Fixed Mobile Convergenceの略。固定電話回線と移動電話回線を融合した通信サービスの形態のこと。
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なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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