システム管理と人工透析――二足のワラジはいつまで続く運用管理の過去・現在・未来(2/2 ページ)

» 2007年07月04日 07時00分 公開
[敦賀松太郎,ITmedia]
前のページへ 1|2       

「君しかいない」に断れず

 プロジェクトが始まってから約1年後の昨年1月、A総合病院の医療事務システムが完成した。新しい医療事務システムの目玉は、患者のあらゆるデータが一元化され、ワークフローも電子化されたことだ。患者の診察所見や検査記録、治療計画、薬剤処方といった電子カルテは、診察室のデスクに置かれたデスクトップをはじめ、どこからでも同じデータにアクセスできる。アクセス可能な情報は、認証システムによって職務分掌がきちんと行われ、権限のないスタッフに必要のない情報は表示しない高度な仕組みも備えていた。業務プロセスのワークフローも電子化され、例えば薬局に処方箋を持っていくような作業もなくなった。この医療事務システムは、これまで帳票の整理など事務処理に忙殺され、本来の業務に注力できなかった医師や看護師には、非常に評判がよかった。

 その医療事務システムがいよいよ完成というある日、事務部長に呼び出された。完成後のシステム管理は、鈴木さんの担当という話だった。ただし、臨床工学技士としての本来の業務が軽減されるわけではない。業務をこなしながら、システム管理を担当し、いざシステムにトラブルが発生した場合は、そのトラブルの深刻度によって本来の業務を他の臨床工学技士に手伝わせるという内容だった。もちろん、システム管理者手当などという気前の良い話はない。

 鈴木さんは「馬鹿な」と思いつつも、事務部長の「システムを分かる人は、君しかいない」という台詞に断れ切れなかった。こうして、鈴木さんの忙しい日々が始まったのだ。

気がつけば“何でも屋”

 新しいシステムが稼働する際、システムを利用するユーザーへのトレーニングは極めて重要だ。SI業者が最初に利用者に対してトレーニングを実施したが、数度のトレーニングですべてを理解できるわけがない。さすがに医師は飲み込みが早かったが、年配の看護師の中には、最初から自分は関係ないと思い込んでいる人もいたようだった。簡単な操作でさえ、何かわからないことがあると鈴木さんが呼び出される。そんな毎日が続くようになった。

 しかし、事はそれだけで収まらなかった。スタッフの中には、デスクトップコンピュータのモニタと、テレビの区別がつかない人もいる。テレビが故障した場合、業務時間をすぎて業者に連絡が取れないと、鈴木さんに仕事が回ってくるようになった。どうやら「医療機器とシステムの面倒を見ている人」という話が大きくなって、“何でも屋”として見られ始めているようなのだ。

「信じて待つ」ことしかできない

 システム管理の業務負荷が高まるにつれ、本来の仕事にも影響が及び始めた。先輩の臨床工学技士にも、これ以上ヘルプは頼めない。さすがに忙しさに耐え切れなくなってきた鈴木さんは、事務部長に民間資格である診療情報管理士取得者の採用をお願いすることにした。診療情報管理士とは、病院のシステム管理者というべき資格で、カルテの物理的な管理や電子化してデータベースを構築する情報管理、データベースから必要な情報の抽出・加工といった業務を行う。

 事務部長からは、病院経営の都合上、すぐに人材を採用することは難しいが、検討するという回答を得られた。頼りない返事だが、今はこの言葉を信じるしかない。鈴木さんは、それまでの我慢と自分に言い聞かせ、臨床工学技士とシステム管理者の二足のワラジを履き続けている。

関連キーワード

データベース | 運用管理 | サーバ


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ