I/Oの仮想化は仮想化技術に欠けていた最後のピースか?

「現在の仮想化技術には1つ欠落している部分がある。それがI/Oの仮想化だ」――Xsigo Systemsのビノット氏はこう語り、最近とみに注目される仮想化技術に欠けた部分を補う自社ソリューションを説明してくれた。

» 2007年07月09日 04時56分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「現在の仮想化技術には1つ欠落している部分がある。それがI/Oの仮想化だ」――Xsigo Systemsでマーケティングおよび事業開発担当担当副社長を務めるS.K.ビノット氏はこう語り、最近とみに注目される仮想化技術に欠けた部分を補う自社ソリューションを説明してくれた。

ビノット氏 発表されたばかりの「Xsigo IS24」を前にするビノット氏。InfiniBandをインタフェースとして用いる現在のXsigo製品だが、例えばVMwareはVMware ESX ServerでInfiniBandをサポートしていない。この点について「VMware ESX Server 3.1が登場すれば、わたしたちはサポートOSとしてその名前を連ねることができるはず」と話す

 同氏の言葉を説明する前に、Xsigo Systemsについて説明しておこう。2004年8月に設立された同社には、かつてジュニパーネットワークスで腕をふるったアショック・クリシュナマティCEO兼会長やスティーブン・ヘイリー社長兼COOのほか、1990年代、Oracleの社長兼COOとして腕をふるったレイ・レーン氏などが取締役として名を連ねるなど、若い企業ながら業界でも知られたメンバーが多く集結している。今回話を聞いたビノット氏も、前職のSunではNetra T1などのエントリサーバやブレードサーバ製品ラインの責任者を務めた人物だ。

 そんな同社が提供するのが、冒頭でビノット氏が現在の仮想化技術に欠けているものとして挙げた“I/Oの仮想化”関連のソリューションである。すでに国内でも、2006年11月に日本法人であるシーゴシステムズ・ジャパンを設立、5月に「Xsigo VP 780」を、そしてつい先日「Xsigo IS24」を矢継ぎ早に発表している(関連記事参照)

 「われわれが目指しているのは、ストレージとネットワークへの接続ポイントを集約し、I/Oの統合化/仮想化を提供すること」とビノット氏。では、なぜI/Oの仮想化が重要なのか。最近注目を集める仮想化技術。各ベンダーからは、この仮想化技術を用いたソリューションが幾つも登場し、データセンターが抱える問題を解決すると言いはやしている。

 もちろんストレージやサーバの仮想化によって、こうした問題点の幾つかは大きく改善されるのは事実だ。しかし一方で、I/Oに関する問題が浮上してきている。例えば、1台のサーバで仮想サーバを多く稼働させた場合のI/O負荷の増大、そしてそれにともなうCPU負荷の増大、さらに深刻なのは、仮想サーバごとの帯域制御である。

 仮想サーバの帯域制御は、その仮想サーバ上で稼働するサービスのサービスレベルを保証するという観点から見ても非常に重要度が高い。現在の仮想化技術では、1つの物理的なサーバ上で複数の仮想マシンが動作していても、インターコネクトとしては、物理的なサーバに備え付けられたものを共同で利用している。100BASEはもちろん、ギガビットのイーサネットなどでも、複数の仮想マシンが共同で使用すればすぐに帯域を占めかねない。さらに、ゲストOSが使用するバーチャルなNetwork Interface Card(NIC)、いわゆるVNICやVFC(仮想ファイバチャネル)は、それぞれでQoSが保証できなかったり、各ゲストOSに対して通信路の完全な分離に至っていないため、あるゲストOSに対してDoS攻撃などが行われた場合、そのほかのゲストOSにもネットワークレベルでは影響が及んでしまう。

 

 Xsigoはこの問題に対し、I/Oの仮想化のためにXsigo VP780というハードウェアを“サーバと切り離して”提供することで解消しようとしている。システムの統合化のは、I/Oの部分も筐体内で集約しようとするアプローチが多く見られる中でこれは特徴的だ。うがった見方をすれば、彼らが「I/Oの統合化/仮想化を提供する」と話すのも、統合化という言葉でユーザーを囲い込むベンダーへの皮肉にも聞こえる。

 サーバとスイッチ、ストレージの間に位置する同社のI/O仮想化コントローラ「Xsigo VP780」は、サーバとの間を10GbpsのInfiniband HCA(Host Channel Adapter)で接続し、その中に仮想化I/Oを通してしまおうというものだ。例えれば、非常に太いホース(Infiniband)の中に、幾つものホース(VNIC、VHBAなど)が存在しているというイメージだ。無論、使用するケーブルも大幅に削減できることになる。

 「われわれは、現状ではインタフェースとしてInfiniBandがベストだと考えるからそれを採用しているが、これは時代の変化に対応できるようにハードウェアを構成している。数年後、別の優れたインタフェースが出てきたならば、ボードの差し替えだけでそれに対応できる。また、現在のサーバ当たりのI/Oで考えれば10Gbpsでも十分かもしれないが、この9月には20Gbpsのデータ転送が可能なDDR InfiniBand HCAを提供する予定でいる。無論、VP 780もIS24はすでにこれに対応している」(ビノット氏)

 また、Xsigo VP780によってVNICは完全に分離した状態で管理できるため、それぞれに対してCIR(Committed Information Rate)やPIR(Peak Information Rate)を設定可能となる。これらは専用の運用管理ソフトウェア「Xsigo View」から操作できるほか(CUIからも可能)、マネジメントフレームワークとしてSOAP/XMLベースのAPIを用意し、IBMのTivoliやHPのOpenViewなどとの連携も図れるようにしている。

Xsigo View Xsigo View。必要に応じて、VNICの追加/削除、QoSの変更が行えるほか、VNICやサーバプロファイルというものを定義して、MAC/WWNアドレスを保持したままでほかのサーバへと動的に仮想I/Oをアサインさせることも可能。

 「企業を設立する際、戦略的なパートナーを探したが、それに素早い反応を示したのは日本企業数社だった。つまり、日本にはそうした技術への市場性――わたしたちにとってはビジネスチャンス――があると言える」とビノット氏は話す。それ故にVP 780もIS24も日本で先行発売し、そのチャンスを最大限に活用しようとしている。

 Xsigoにはベンチャーキャピタルをはじめ、幾つかの企業が出資しているが、その中でも住友商事が出資していることは明記しておきたい。同社はXenSourceにも出資しており、その流れでこの4月、XenSource、住商情報システム(SCS)、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の3社で、XenハイパーバイザーをベースとしたXenSourceの仮想化製品を日本市場に提供する上での戦略的協業を発表している(関連記事参照)。当時のインタビューでは、Xsigoについても語っているが、これは“トータルな”仮想化システムを提供するにあたって、I/Oの部分が無視できないという好例だろう。なお、Xsigoには三菱商事やネットワンシステムズなども出資している。

 仮想化市場の高まりの中、その中心近くに位置するXenSourceは先日、仮想化ソリューション事業でNECと戦略的パートナーシップを締結した。Xsigoも今後、システムインテグレーターやリセラーではなく、大手ハードウェアベンダーとこうした提携をするのだろうか。

 「一般論としてデータセンター向けのビジネスでは、“フルラインの”ソリューションを持つことが重要であり、その意味で強力なパートナーは必要不可欠。大手ベンダーについて言えば、彼らとのパートナー契約には2つのやり方がある。1つはインターオペラビリティのテストのみを行うというもの。もう1つはOEMだ。わたしたちとしてはどういった対応も取れるようオープンに構えている、という状況だ」(ビノット氏)

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