法人ビジネスのドコモ2.0は“No”と言わないこと──NTTドコモ 三木茂氏ワイヤレスジャパン2007 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)

» 2007年07月10日 18時13分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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ITmedia ドコモの努力は感じます。特に地方でのエリア改善はめざましいものがありますね。2年くらい前とまったく違って、安心して使える。

三木 ありがとうございます。特に地方は800MHzのFOMAプラスエリアの効果が大きくて、電波がよく届くんですね。(直進性が高い2GHz帯の電波と違って)電波が(建物の陰などにも)回り込みますから、かなりつながりやすくなっています。

 しかし、昔の2GHz帯しか使えないFOMAですと、このプラスエリアの恩恵が受けられませんから、いまだに「FOMAはつながらない」と怒られてしまう。FOMAの悪印象は、こういった初期型FOMAをお使いの方の声によるものが大きいのです。今あるプラスエリア対応のFOMAなら、エリアの問題はほとんどないのですが。

ITmedia あと、ドコモは移動基地局車や移動電源車の保有台数、災害時のネットワーク復旧体制の規模では3キャリアで随一ですよね。災害時の対応力というのは、法人市場での競争優位性として大きいのでしょうか。

三木 そこは非常に重要です。実際、自治体や(電気・ガス・水道など)インフラ企業ではドコモをお使いいただいているケースが多い。災害に強いネットワークや、(緊急時の)輻輳対策の充実という点はドコモの優位性になっています。また、ドコモではメッセージRを使った同報通知サービス「エマージキャスト」なども用意していますので、こういった部分も(ドコモの)「安心のネットワーク」を支える要素になっています。

モバイルソリューション市場は今後どうなるか

ITmedia 法人市場は契約数ベースでは拡大していますが、一方で今後の課題は法人向けモバイルソリューション市場の創出と、そこでの競争ということになります。この分野におけるドコモのポジションや、競争優位性はどういったものになりますでしょうか。

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三木 (法人向けの)モバイルソリューション分野では、まず「PASSAGE DUPLE」に力を入れています。これは会社内の内線電話を携帯電話で置き換えるもので、無線LANとSIPサーバを用いて実現します。社内の内線では無料で使えて、外出時には携帯電話として使えるというものです。

 また、SIPサーバーを構築するほどのニーズがない企業向けには、「OFFICEED」を用意しています。これは社内にIMCS(Inbuilding Mobile Communication System/屋内基地局設備)を設置し、そこに登録した社員のFOMA同士で音声定額を実現するものです。

ITmedia どちらも音声系のモバイルソリューションですね。特に今の注目だとWi-Fi連携ということになりますが、初期のPASSAGE DUPLEは安定運用に苦労があったと聞いています(2005年9月の記事参照)。その後安定性は増したのでしょうか。

三木 PASSAGE DUPLEはすでに500社以上の導入実績があります。他キャリアでも無線LANとSIPサーバを使ったソリューションを出されていると思いますが、(ドコモの)導入数と実績は桁違いですよ。

 正直にいいますと、初期型PASSAGE DUPLEで使った「N900iL」は私が開発主幹を努めたのですけれど、大変な苦労がありました。あの時の苦労やつらさは、すべて現行PASSAGE DUPLEの“うまみ”に変えています(笑)

ITmedia 「N902iL」を使う現行型は、先代の苦労やノウハウが生かされている、というわけですね。

三木 そうです。導入していただいた企業の評判は大変いいですよ。N902iLでは無線LAN機能を改良したほか、FeliCaも搭載していますので、オフィス用途での使い勝手がいい。(構内用の)音声ソリューションから導入していただき、将来的にFeliCaを使った入退館管理やデジタル複合機のセキュリティにも応用できます。

ITmedia 法人向けのモバイルソリューションで「音声系サービス」というのは、市場の特性を考えても今後さらに重要になると思います。一方で、昨年からスマートフォン活用などデータ系ソリューションも注目されているわけですが、この分野の法人市場における現状や将来性をどのように見ていますか。

三木 BlackBerryはソリューションが明確なので、「指名買い」をする法人が増えていますね。我々は法人向けのさまざまな端末を用意していますが、指名買いが多いのはこれ(BlackBerry)だけです。

ITmedia やはり外資系企業での導入が多いのでしょうか。

三木 傾向としてはそうですが、最近は国内企業による導入も増えています。ドコモがBES(BlackBerry Enterprise Server)構築まで担当するケースが増えました。導入していただいている業種業態はさまざまですが、基本的には国内外に拠点を持つメーカーが多いですね。ただ、国内市場中心の企業でも導入例が出ていますので、裾野は広がりそうです。

ITmedia Windows Mobile系のスマートフォンはいかがでしょうか。

三木 そちらはWindows Mobileだから導入につながるということはなくて、「どのようなソリューションがあるか」が大切ですね。例えばバーコードリーダーと組み合わせて検品管理用端末にするとか、顧客企業にあわせたソリューション構築が重要になります。

ITmedia ソリューションが明確なBlackBerryと異なり、Windows Mobile端末の活用は(Windows)プラットホームをどのようにソリューションに結びつけるかがポイントになっているわけですね。

三木 ええ。ただWindows Mobileは汎用性が高い分、セキュリティ構築や安定運用にノウハウが必要になります。従来の販売チャネルやサポート体制では売れるものではありませんから、(Windows Mobileの活用では)ソリューションの提案や導入支援ができる体制があるかが、(競争上の)重要な要素になると考えています。

法人ビジネスにとっての「ドコモ2.0」とは

ITmedia 番号ポータビリティ導入以降、ドコモを取り巻く競争環境は激しく、また厳しくなっています。ドコモの法人ビジネスを、どのように舵取りされていくのでしょうか。

三木 我々はいま「ドコモ2.0」というスタンスでビジネスを展開していますが、法人ビジネスにとってのドコモ2.0は何かといいますと、「Noとは言わない」ことだと考えています。

 お客様のビジネスの価値を高めるためには、我々ドコモはNoとは言わない。お客様に適切な料金やソリューションを組み合わせて、「何とかしていきましょう」と答える。そのためには(ドコモ側で)料金シミュレーションの計算が手作業になってもかまわないと思っています。

ITmedia お仕着せの料金やサービスを売るのではなく、ちゃんと法人のお客様と向き合っていく、ということですね。

三木 そこがドコモと、auやソフトバンクモバイルとの違いになる部分です。我々には、そのためのリソースがあるのですから。

 法人のお客様で、何かお困りごとがあれば「まずはドコモにご相談ください」。何とかしましょう。それが、ドコモの法人ビジネスです。

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