他社との差別化を図る経験価値とはWeb2.0時代でCRMは次世代型に

顧客との継続的関係を維持するアプローチとしておなじみのCRMに、新しい流れが起こりつつある。「顧客による経験」を換算するそれは一体……。

» 2007年08月02日 06時58分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト]

CRMに失望

 顧客との継続的関係を維持するアプローチは、1980年代に登場したリレーションシップ・マーケティングや、1990年代のワン・トゥ・ワン・マーケティングを経て、2000年を前にCRM(顧客関係管理)として開花。顧客の購買行動を分析し、そのプロセスを管理することを重点目的としたCRMは、一世を風靡した。

 しかし、取引やオペレーションに焦点を絞りすぎ、限定された接点(コールセンター、メール、購買履歴など)による量的な情報の記録に集中するなど、顧客との情緒的な関係(リレーションシップ)を築けないとの批判から、一時はその理念や効果の是非が議論されることとなる。

 そんな中、機能的な製品特性や取引のみならず、意思決定や購入、使用を通じて顧客が企業との接点で体験するすべてのプロセスを管理し、その「経験価値」を高めようとする考えが起こっている。

経験価値とは

 ここ数年のCRM関係団体の世界大会でも、「カスタマー・エクスペリエンス」というキーワードが頻繁に使われ、それを軸にしたマネジメントとしてのCEM(Customer Experience Management:顧客経験管理)が注目されているのだ。

 経験価値とは、製品やサービスを使用した顧客自身の経験によってもたらされる価値のことで、一人ひとりが感じる感動や快楽などが由来となる。また、顧客を「購入者」として位置付けるのではなく「最終利用者」ととらえるのもポイントだ。

 顧客を単なる「購入者」と見た場合、何らかの目的を前提として製品・サービスを購入するものと考え、その物理的機能で顧客を満足させようとする傾向がある。だが、「最終利用者」としてみると、「顧客の思い出づくり」のためのマーケティング活動を目指すため、企業は製品・サービスの使用経験を通じた心地良い感動を提供することに努力するようになる。

CRMを超えた!?

 経験価値ブームに火を点けたのが、米コロンビア大学ビジネススクール教授、バーンド H. シュミット氏の著書「経験価値マーケティング」と「経験価値マネジメント」である。シュミット氏は、その著書の中で、CEMを「顧客と、製品や企業との関係全体を戦略的にマネジメントするプロセス」とし、その実現のためのフレームワークを5段階で定義している(下図参照)。マーケティングコンセプト(取引の記録)ではなく、真に顧客に焦点を置いたマネジメントコンセプト(顧客とのリッチな関係づくり)に移行するという意味において、CEMはCRMを超える効果をもたらすという。

 ただし、CEMは顧客の経験の感覚的、感情的要素を最大化できるという考え方であって、CRMに置き換わる新たなソリューションということではない。

 また、CEMと並ぶキーワードに、「コ・クリエーション」がある。「顧客とともに経験をつくる」というコンセプトで、企業主体の価値創造から顧客中心の「価値共創」を目指す、新しいパラダイムを示す言葉として使われている。

 現在のような成熟化した社会においては、苦労して開発した商品やサービスも即座にコモディティ化し、商品自体で差別化することが困難になっている。こんな時代には、商品ではなく「顧客の参画によって創出される経験」で他社と差別化を図るのが、CEMでありコ・クリエーションの基本的な考えというわけだ(「月刊アイティセレクト」9月号のトレンドフォーカス「CRMは次世代へ Web2.0時代において他社との差別化を図る経験価値とは一体何?」より。ウェブ用に再編集した)。

米ミシガン大学ビジネススクール教授のC.K.プラハラード、ベンカト・ラマスワミ両氏の共著「価値共創の未来へ―顧客と企業のCo‐Creation」で唱えられた。
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