教育を根源から覆すかもしれない6日間が幕を開ける――Imagine Cup 2007

韓国・ソウルを流れる漢江を眼下に、世界中から集まった学生がテクノロジーの観点から教育を見つめ直す――Microsoftが主催し、全世界の学生を対象にする技術コンテスト「Imagine Cup 2007」が開催された。

» 2007年08月05日 22時45分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 韓国・ソウルを流れる漢江(ハンガン)を眼下に、世界中から集まった学生がテクノロジーの観点から教育を見つめ直す――そんなイベントが8月5日から8月11日にかけて開催される。

 Microsoftが主催し、全世界の学生を対象にする技術コンテスト「Imagine Cup」。8月5日から8月11日にかけて韓国で開催される「Imagine Cup 2007」は、2003年の第1回大会から数えると5回目となる。参加者は回を重ねるごとに増え続け、Imagine Cup 2007では、100カ国、10万人以上が参加する規模にまで成長した。コンテストの領域も拡大しており、Imagine Cupとは別に存在していたMicrosoft主催の組み込み系の技術コンテストを吸収、組み込み部門として新設したほか、写真部門、Web開発部門などが加わった。もっとも規模の大きいソフトウェアデザイン部門では、昨年から10チーム以上増えた55チームがしのぎを削るまでになった。

 参加国が増えるにつれ、国ごとの傾向も見て取れるようになってきた。第5回大会で特に出場チームが多いのは中国の10チーム、次いでポーランド(8チーム)、インド(7チーム)、フランス(6チーム)、ブラジル(5チーム)と続く。いわゆるBRICsのような国々から出場権を勝ち取るチームは確実に増加し、しかもそれが組み込み部門などに集中しているのは興味深い。

分布図 ソフトウェアデザイン部門の世界大会に進出したチームの分布(Imagine Cup公式サイトより)

日本代表チームへの期待

 一方、日本について見てみると、2大会前の第3回大会で3チームの日本代表を輩出したのをピークに(このうち、ビジュアルゲーミング部門で加藤新英氏は優勝、熊谷一生氏が3位に入賞している)、前回の第4回では2チーム(いずれもベスト6に入賞)、そして今回の第5回では1チームとなってしまった。ソフトウェアデザイン部門について言えば、過去の実績などを考慮し、日本を含む幾つかの国々はそれぞれ国ごとの代表を選出できる(それ以外は、地域ごとに1チームを選出など)。つまり、確実に1チームは世界大会に送り出せる状態にあるわけで、それを考慮すると1チームというのは最低ラインとなるわけだ。その意味では今回はいささかもの悲しい。

 しかしその反面、上述したように昨年インドで開催された「Imagine Cup 2006」のソフトウェアデザイン部門で、中山浩太郎さん、塩飽(しわく)祐一さん、前川卓也さん、大居司さんの4人からなる「Project Docterra」がすばらしい成果を収めたのを目の当たりにしただけに、今回も……と期待してしまうのが本音である。

 そんなソフトウェアデザイン部門の今年の日本代表チームは、同部門の日本代表を決定する国内最終予選会も兼ねて3月に大阪で行われた「The Student Day 2007」で、北海道大学大学院情報科学研究科の学生4名から構成される「Team Someday」がその権利を勝ち取っている(関連記事参照)。同チームのソリューションは、「LinC」と呼ぶデジタルノートシステムだ。

左から下田修さん、大和田純さん、丸山加奈さん、坂本大憲さん

 8月4日に都内で開催された日本代表チームの壮行会で、「The Student Day 2007」のときにプレゼンテーションしたものから大きく進化したLinCを披露したTeam Someday。Imagine Cupのような国際大会で日本人の弱みとしてよく挙げられる英語力の問題についても、同チームを率いる下田修さんの口をついて出る英語は流ちょうだった。

 「チームのみんなに頭を下げて、The Student Day 2007で得た賞金50万円の多くを短期留学の資金として用いたから」と後で恥ずかしそうに明かしてくれた下田氏。The Student Day 2007で優勝した同チームに記者が話を聞いた際、チームワークの良さを強みとして挙げた同チーム。しかしそれでも、賞金の使い道をこのように決め、それをチームが同意したということに軽い驚きを覚えるとともに、改めてチームワークの良さを感じさせる。もっとも、冷静に見れば、英語はともかく、壮行会で見せたプレゼンテーションの内容には説明不足な部分もあった。しかし、学生の伸びしろは時に予想を大きく裏切る。そしてそれを本番で期待したい。

テーマは「教育」

 昨年は医療がテーマだったImagine Cupだが、今回のテーマは「教育」。すべての部門でこれを意識したものとなっているが、とりわけソフトウェアデザイン部門はテーマを注意深く作品に取り込むことが求められる部門でもある。

 前回のImagine Cup 2006に参加して記者が感じたのは、ソフトウェア部門においては、このテーマのとらえ方に大きく2つのベクトルがあるということだ。つまり、広いレンジを対象にしたものと、ごく局所的なものの2つである。広いレンジを対象とする場合、誰にでも直感的にそのソリューションの意図が受け入れられなければならないし、局所的なポイントソリューションでは、その切り口の斬新さが問われることになる。

 同じソフトウェア部門でしのぎを削る各国代表のデータを見ると、外国語を学ぶためのソーシャルネットワーキングシステムや、発展途上国、その中でも地方の小中学校での授業材料不足を解消するためのポータルシステムなど、広いレンジを対象にしたと見られるソリューションもあれば、どんなテキストでも点字に変換するシステムや、テキストや音声といったデータと点字のデータを相互変換する通訳システムなど局所的なソリューションで勝負するチームが存在するといったように、上述した2つのアプローチを起点に興味深いアイデアが並んでいる。まだ現時点では、実際の発表は行われていないため、詳細は後日記事に譲るが、教育というテーマで審査員の心を打つのはどのソリューションになるのか興味は尽きない。

 ホテルに着いた8月5日は夕方からウェルカムディナーで各国の代表チームと談笑していたTeam Someday。明日8月6日からはソフトウェアデザイン部門の激闘が早速開催される。Team Somedayの初陣は8月6日の17時から。審査員を変えて2回行われ、その結果55チーム中12チームが第2ラウンドに進出する。Team Somedayの暑い夏が始まろうとしている。

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