学生が至福の時間をすごすための1つの方法――Imagine Cup 2007総括Imagine Cup 2007 Report(2/2 ページ)

» 2007年08月16日 06時16分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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インターネット上で起こる創発を超えるイノベーションは生まれるか

 下田さんは別記事でのインタビューにおいて、チーム開発の意義をこのように話した。「人と人との創発が起こった」――しかし近年、より大規模な形での創発が起こっていることをわたしたちは知っている。インターネット上のマッシュアップである。

 顔も知らない誰かのサービスを自分で改良し、それをまた誰かが改良する。古くはオープンソースソフトウェアコミュニティーの世界で当たり前のように行われてきたことだ。しかしこれがいつしか、コミュニティーそのものがある固有性を代表する人物・対象が存在し、それを頂点と知るヒエラルキーが存在する「実体」であるかのような錯覚を生んでしまった。これをすでに数年前に指摘したのがRubyの作者であるまつもとゆきひろ氏だ。同氏は数年前、「(オープンソースのコミュニティーは)国よりも幻度は高い。この世の多くは幻だが、コミュニティーはとりわけ幻で、議論の立脚するに足りないくらいのもの」と語っている(関連記事参照)

 その意味ではかつてのコミュニティーというものの存在がその耐用年数を過ぎ始めたのだと言える。代わって、中心も頂点もない集まりの中でマッシュアップが行われるケースが目立つようになってきた。両者に共通しているのはユーザーをもその構成要素とする創発システムである点だ。「パラダイムシフト」というありふれた言葉で後に表現されるのかもしれないが、開発形態の変革期にあるような気さえする。

 もちろん、対面でのコミュニケーションや開発を否定するものではないが、こうした環境下にあって、あえて国という旧来の枠組みで、かつ、数人のチームでイノベーションを期待するコンテストの意義も再考する必要がある。

新・勝利の方程式

 話が脱線したが、昨年のImagine Cup 2006を見て記者が感じた「勝利の方程式」は、今回もろくも崩れ去り、それが一部真でないことを証明してしまう形となったが、その一方で新たな発見もあった。

 まず英語力は、相手の話している内容を(大まかにでも)理解し、それに対して返答できる程度で構わない(言うは易し、行うは難しだが)。むしろアピール力こそが求められる。昨年の日本代表チームの一員で、現在はNTTコミュニケーション科学基礎研究所社会インタラクション研究グループの前川卓也さんも「アピールするというのは人を説得するに当たって大きな要素。とにかく目立つことを考えるべし」と話していたが、アイデアこそさほど革新的ではなかったものの、そのプレゼンテーションで多くの審査員をうならせたジャマイカチームが3位入賞したのはこのあたりによるものが大きいと思われる。

 「日本大会のプレゼンテーションの延長ではない。指数関数的に求められるスキルが高くなったのが世界大会」と日本代表チームの下田修さんは本大会を振り返る。くしくもこれは、マイクロソフトデベロッパー&プラットフォーム統括本部 アカデミック教育本部本部長の冨沢高明氏が3月のStudent Dayで「日本の物差しで測っている部分」と指摘した部分でもある。実際に世界大会に出てみないとそれが分からないというのはなるほどその通りかもしれない。しかし、先人の言葉にはやはり真実が含まれているということも知っておくとよいだろう。

ニコルズ氏 「日本代表チームのソリューションはファンタスティック」とニコルズ氏。リップサービスかと思いきや、最終日に各国代表チームが自分たちのソリューションを紹介したショーケースの場において、BTのCTOの方とやってきて、日本チームに賛辞を贈っていた

 こうしたファンダメンタルな部分の上に、テーマに対するアドレスのよさが問われることになる。上述したニコルズ氏は日本代表チームについて、基本的なアイデアは悪くないが、「教育」というテーマに対して、問題の定義づけが弱く、どうアプローチしたのかがクリアに伝わってこないため汎用的なものに映った」と述べている。

 来年のImagine Cupはフランスで行われる。テーマは「環境」。日本を含め、環境先進国はやもすれば環境破壊の先駆者でもある。そうした国々がこのテーマに対してどういったソリューションを見せてくれるのか、その興味は尽きない。

 もっともそれ以前に、興味と関心の赴くままに学ぶという時間は学生に許された至福の時間である。もしそうした興味や関心をソフトウェアに向けているのなら、仲間を見つけ、アイデアを形にし、そしてそれをImagine Cupに提出してみてほしい。遊び感覚でも構わない。タダでフランスに行けるかも、という程度の意識でもよいではないか。Imagine Cupで世界中からの称賛を受けたあなたはそのとき改めて気がつくだろう、自分たちが遊び半分で考えたアイデアは実はすごいものなのだと。そして、こんなに楽しいことがソフトウェア開発にはあるのだと。

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