「敷居の低さ」が企業の知を「カイゼン」するエンタープライズ2.0時代の到来(2/3 ページ)

» 2007年08月17日 07時00分 公開
[栗原潔,ITmedia]

Wikipediaから学ぶ「敷居の低さ」の重要性

 それでは、具体的にWeb2.0系テクノロジーは企業においてどのようなメリットを提供するのだろうか。重要なポイントは「敷居の低さ」と「ユーザー自身の自治によるボトムアップ的管理」だ。

 Wikiというテクノロジーを例に取ってみよう。Wikiは、システム的に言えば、誰でも書き込み可能なホワイトボードのような存在だ。複雑なアクセス制御やコンテンツの分類機能が提供されているわけではない。単純といえば単純すぎるツールだ。

 しかし、このような単純なツールに単純なプロセスを組み合わせることで強力な結果を生み出されることも事実だ。Wikipediaを例に取ってみると、項目を書き込むために複雑な登録作業やレビューがあるわけではない。システム的には誰でも好きに書き込んでよいのである。従来の考え方から言えば、あまりも野放図な仕組みと思われるのではないだろうか。しかし、この野放図さがWikipediaの成功の一因である。仮にでたらめを書き込む悪意のユーザーがいたとしても、それを修正してくれる善意のユーザーはその何万倍もいるからである。

 実は、WikipediaにはNupediaと呼ばれる前身プロジェクトがあった。オンライン百科事典を作るという目標は同じだったのだが、内容の正確性を保証するために、投稿者は博士号取得者に限定し、かつ、厳格な査読プロセスを採用していたため、項目がほとんど集まらなかったという。結果的に、サブプロジェクトであったWikipediaが日の目を見て、今日の成功に至っているわけだ。厳密性を追求しすぎると失敗するという例だ。

 もう1つ例を挙げよう。ある企業では、KM実現のために高度なシステムを検討していたが、実装までの一時的な間に合わせとしてWikiベースで仮運用を始めた。しかし、ユーザーがWikiを使いこなすにつれ、充分すぎる以上の効果が提供され、元々計画されていた高度なKMシステムはほとんど不要になってしまった。複雑で厳重に管理されたシステムをコストと時間を掛けて実装するよりも、Wikiという単純なシステムをユーザーの適切な自治で運用した方が投資効果が高いという結果になったわけである。

 一般に、企業内システムはまず管理ありき、ガバナンスありきで始まることが多い。例えば、企業の基幹業務をつかさどるシステムであれば、充分以上の厳格な管理が必要だ。しかし、KMのような利用者の積極的な参画が成功の条件となるシステムでは、まず「敷居の低さ」を最優先すべきことも多いであろう。

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