「敷居の低さ」が企業の知を「カイゼン」するエンタープライズ2.0時代の到来(3/3 ページ)

» 2007年08月17日 07時00分 公開
[栗原潔,ITmedia]
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日本は「知識のカイゼン」の先駆者となれるか

 テクノロジー的に見れば、ブログ、SNS、Wikiなどを企業内で展開するのはそれほど難しいことではない。実際、企業内ブログを活用するユーザーは多い。しかし、単純に今まで社内掲示板を使っていたが、あまり活用されていないので、それをブログに取り換えたというだけで活用が進むわけではない。結局、重要なのは社内の意識改革、そして、その前提となる企業文化の改革なのだ。

 筆者は、前述のマカフィー教授が開催したワークショップに参加したことがある。そこでは、米国を中心とした大手企業のIT部門担当者がエンタープライズ2.0の展開における課題を議論したのだが、彼らの悩みも「ブログやSNSを展開しても、一部の人しか使ってくれない。特に年長者が使ってくれない」というものが多かった(その点では、日米とも共通した悩みがあるかもしれない)。

 それでは、エンタープライズ2.0を成功させるための意識改革を成し遂げるにはどのようにすればいいか? もちろん、これには単純な答えはない。しかし、経験則的に言える点の1つは、若い世代をうまく原動力にしてジェネレーションギャップをうまく超えることではないだろうか。若い世代の中にはインターネットにおいて前述のSLATESを当たり前のこととして行っている者が数多く存在する。例えば、筆者が聞いた事例によると、ある企業では、会議の議事録を添付ファイルで送ったところ、若い社員から「なぜ、Wikiで公開しないのか」とクレームが来たそうだ。確かに、議事録をWiki化し(関係者に限定して)公開すれば、書き間違いも修正できるし、会議では出てこなかった重要なアイデアが出てくる可能性もある。Wiki化しない理由はないかもしれない。これに限らず、若い世代からヒントをもらうことは重要だろう。

 前述のように、Web2.0系のテクノロジーが成功した理由として「敷居の低さ」がある。あまり複雑なプロセスに頼らずに、それぞれの利用者の自治による最低限のガバナンスで情報共有が行われているということだ。エンタープライズ2.0においても、同様の敷居の低さは重要だ。従来の基準で言えば、「こんな適当で大丈夫なのか」というくらいのガバナンスの方が、社内にエンタープライズ2.0の文化を根付かせることできるかもしれない。

 より年長の層、特に中間管理職を納得させるためには、成功事例集の存在も必要かもしれない。エンタープライズ2.0のような先駆的分野では、「他社事例があるから安心して自社も実施する」のではなく「事例がないからこそ自社が先んじて実施し、先行者利益を獲得する」のが本来の姿だとは思う。しかし、保守的な層を説得するためには成功事例が何よりも重要だろう。ちなみに、マカフィー教授もこの課題を強く認識しており、ネット上でエンタープライズ2.0の成功事例集を構築することを提案(かつ、自身がボランティア管理者として立候補)している。

 最後に、エンタープライズ2.0における現場のユーザー自身が知識を交換し、ボトムアップ的に業務を効率化していくという考え方は、元々、日本企業が得意技としていたことを思い出すべきという点を述べておきたい。TQC(トータルクオリティコントロール)、カイゼン活動など日本企業に由来する現場ボトムアップ型のベストプラクティスが、世界的に普及してきたケースは多い。ゆえに、エンタープライズ2.0においても、日本企業が世界で先駆的な役割を果たす可能性は十分にあると言えるだろう。

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