だが、大根田氏は「全国に広がる支社や拠点、進行中のプロジェクトにそれらをあまねく実施することは現状では不可能。どうしても重要プロジェクトや大規模拠点などが優先されがちになり、平等なサービスが不可能な場合も多いのが悩み」と明かす。
そのため、地域の臨床心理士が在籍する外部医療機関や、外部EAP(従業員支援プログラム)ベンダーなどと契約を結び、全国のグループ企業でも利用できるようにしているという(図2)。
現在まで、産業カウンセラー資格は7人が取得し、今後年間で3、4人程度の資格取得を目指すという。資格を取得したことによって、産業保険スタッフとの会話もスムーズになり、連携が取りやすくなったという大根田氏は、「相談件数は日々増加している中、柔軟に対応できる体制が作れたことは大きな成果」と話す。
また最近では、部下への接し方に悩む管理職やプロジェクトリーダーが自費で受講するケースも少なくないという。大根田氏は、最も注意すべき点は部下の勤怠だと指摘する。時間にルーズになる部下をチェックすることが第一歩。さらに、生産性が著しく低下する、ミスが増える、考えられないような間違いを犯すなど、普段とは異なる変化に気付いたら、いきなり指導するのではなく、まず話をじっくり聞いてあげることが大切だという。
「上司としてはすぐさま注意や説教をしがちだが、それをぐっと我慢して、何はともあれ話を聞くこと。その中で、『睡眠(眠れない、起きられない)』『食欲(がない)』『疲労(疲れが取れない)』に関するキーワードが頻出したら、メンタルヘルス不全に陥っている可能性が大きいため、専門家のアドバイスを仰ぐよう指導する」(同氏)
傾聴する技術を身に付け、危険のシグナルをいち早くつかむことが重要ということだ。
このような企業の取り組みは一例だが、メンタルヘルスケアは産業界として取り組まざるを得ない義務の1つ、あるいはリスクだとの認識が広まっている。従来、身体と心の問題は社員個人で解決すべき問題とされてきた。しかし、安全配慮義務(*4)が身体的危険性よりも精神衛生が重視されるような質的変化を見せる中、電通事件(*5)を境に、業務を行う上で社員の心を不全にしてはならないという意識が急速に高まった。
それが、最近の健康経営やCSR(Corporate Social Responsibility)への関心を反映しているともいえる。企業が業績を上げていくためには、社員が健康で働きがいを感じ、生き生きと働ける環境作りと支援が今後ますます求められてくるだろう。
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