“文書を聴く”――OpenXMLの世界を広げるJukeDoX

スカイフィッシュがリリースした「JukeDoX」に対し、マイクロソフト業務執行役員の加治佐俊一CTOは最大級の賛辞を贈る。OpenXMLとアクセシビリティの融合がかいま見えるからだろうか。

» 2007年12月03日 06時36分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「アクセシビリティに軸を置きつつも、それをうまく利用しながら(OpenXMLのような)テクノロジーを広めていけるという可能性を見せてくれたことは大きな意味がある」――スカイフィッシュが11月30日にリリースした文書ファイル読み上げソフトウェア「JukeDoX」に対し、マイクロソフト業務執行役員の加治佐俊一CTOはこう賛辞を贈る。

 JukeDoXは、Microsoft Office 2007で新たに採用されたMicrosoft Office Open XML(OpenXML)に基づくファイル形式のほか、doc/xls/pptといった従来のMicrosoft Officeのファイル形式(Outlook Expressのeml形式にも対応)、さらにはPDF、一太郎、ロータス1-2-3、リッチテキストなど、一般的な文書ファイル形式の多くに対応し、それらを読み込んで音声で読み上げるもの(WAVやWMAなどでのファイル出力も可能)。それぞれのアプリケーションがインストールされていない環境でも動作し、OpenXML形式のファイルであれば、JukeDoX上での簡易編集も可能となっている。

JukeDoX 音色は、男性/女性に加え、喜怒哀楽の感情を込めた読み上げなども設定可能。Speech API(SAPI)対応のOS(VistaやOffice XPをインストールしたXP)であれば英語での読み上げも可能。ちなみにC#で開発されている

 イメージとしては、AppleのMac OS X 10.5、すなわち「Leopard」に搭載されているQuick LookとiTunesが融合し、そこに音声読み上げ機能が実装されたものと考えればよいだろう。音声読み上げには、アニモ(同社は富士通の社内ベンチャー第1号)の音声合成ライブラリFineSpeechをメインに、SAPIも利用可能にしている。「SAPIはコントロールが簡単な分、やれることも限られてしまう。FineSpeechについて深く知っているのも当社の強み」とスカイフィッシュ代表取締役の大塚雅永氏は話す。

 大塚氏は「オーディオプレイヤーのような感覚で、文書を“聴く”」ソフトウェアであると話す。続けて「コンシューマとビジネス、両方の使い方があるのではないか」とも。確かに、会議の資料などを音声データとして持ち歩く、もしくはExcel 2007で英単語帳や歴史の年号などのリストを作り、音声データにするなど、使いようによっては面白い製品になるかもしれない。

 JukeDoXの価格は、パッケージ版が1万8900円。法人向けのボリュームライセンスも2008年春に提供予定。年末までには体験版も提供予定であるとしている。

左から細田和也氏、加治佐俊一CTO、大塚雅永氏、JukeDoX開発の中心人物である渡辺歩氏

ベンチャーのフットワークが光る製品開発

 2007年5月、加治佐氏と大塚氏は机を挟んで議論を交わしていた。議論の内容は「OpenXMLと、文章読み上げ機能を融合させて何か新しい取り組みができないか」。両者がこうした議論をするに至った経緯は次のようなものだ。

 Microsoftが、1997年、Microsoft Active Accessibility(MSAA)というSDKを公開し、本格的にアクセシビリティを推進するようになった。その後、「本当の意味でアクセシビリティを向上するには、OSだけではだめで、IHV/ISVも巻き込む必要があった」(加治佐氏)ため、2002年にマイクロソフト支援技術ベンダープログラム(MATvp)を開始している。

 大塚氏が、スカイフィッシュを設立したのが2005年9月。同社はベンチャー企業ではあるが、音声化技術での強みを生かしMATvpに参加、Windows Vistaのリリース時には、同日にVistaに対応した画面読み上げ(スクリーンリーダー)ソフトウェア「Focus Talk」を発表するなど、アクセシビリティ/ユーザビリティに配慮したソフトウェア開発を手掛けてきた。

 スカイフィッシュが強みを持つ音声読み上げと、Microsoftが推進するOpenXML、その融合を検討した両者。マイクロソフトでアクセシビリティプログラムマネジャーを務める細田和也氏などの全面的な協力体制が得られたこともあり、大塚氏はベンチャーの心意気を存分に見せた。その1カ月後となる2007年6月、マイクロソフトがWindowsプラットフォームとサービスを融合した、新時代のユーザーエクスペリエンスを普及啓蒙していくためのコミュニティーとして「Wipse」を立ち上げた際、スカイフィッシュは後にJukeDoXとなるOpenXMLReaderを披露している。

 なお、アクセシビリティを高めるようなこうした機能を、Microsoft自身が開発し、積極的にOSに取り込めばよいのではないか、という質問に、加治佐氏は次のように答える。

 「OSに入れるという話になると、(次のバージョンやサービスパックで、といった)非常に時間の掛かる話となる。ちょっとした改善をスピーディに積み上げていくような、機敏さを生かして製品開発を行うパートナーのソリューションは相互補完的に働く」(加治佐氏)

フォロワーの出現は確実だが

 OpenXMLによって容易に文書構造を確認可能となったことで、JukeDoXのような商用アプリケーションは今後も登場するだろう。実際には、Perlなどのライトウェイト言語でOpenXMLをパースし、SAPIにそれを渡すことでJukeDoXの機能に近いものが実現できるだろうし、そうした仕組みのWebサービスも近いうちに登場するかもしれない。もちろん先行者利益というものも存在するであろうが、スカイフィッシュはその競争をどう勝ち抜くのか。

 「JukeDoXは当社のOpenXMLソリューションの起点に位置する製品。わたしたち自身も、(JukeDoxのWebサービス化など)ここからさまざまな方面に踏み出せると考えています。Focus Talkから蓄積してきた音声化技術での強みを生かし、OpenXMLとの融合を果たした製品をいち早く市場に届けられたという事実。そして、Focus Talkをお使いいただいている視覚障害者の方から寄せられた声などを参考にさせていただき、アクセシビリティを実践する上で、本当に使いやすいインタフェースを考えてきた積み重ねがある。1歩とは言いませんが、半歩は先に行けるのではないか」(大塚氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ