「やるリスク」より「やらざるリスク」を意識した組織づくり日本のインターネット企業 変革の旗手たち(2/2 ページ)

» 2008年01月01日 00時00分 公開
[堀見誠司,ITmedia]
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ITmedia 価格.com開設当初は玄人志向の強いコンテンツが中心でしたが、最近では製品に詳しくないライト層の人たちに向けた情報も増えています。

田中 とがった記事や情報を扱っているサイトが安易に一般層を呼び込もうとすると、逆に“プロの人”が逃げていってしまいます。彼らは一緒に有用なコンテンツを作成してくださる「パートナー」なので敬意を払いながら、初心者層も取り込んでいくことが求められます。そこで、購入した人の評判・評価を、レスが付かない形で載せるレビュー情報を充実させることで、製品に詳しくない人でも安心して利用できるようにしました。

 また、PCや家電製品のような耐久消費財だけを扱っていると、サイトの利用頻度がなかなか上がりません。より広いユーザーが利用できるように、お酒、お米、書籍、CDといったより単価の低い、日常で頻繁に買うような商品も扱っています。

ITmedia さまざまなジャンルの商品を扱っていることを認知してもらうために、APIも公開しているそうですね。

田中 これには大きく2つの目的があります。1つは、ユーザーが価格.comのサービスにサイトの外部でも触れられるようにして、将来的にサイトに訪れてもらう誘因とするためです。もう1つは、われわれがオープンな企業としていろいろな企業と協業していく姿勢を外に出していけば、企業のブランドイメージを上げることができます。それによって同時に、採用が難しくなってきている優秀なエンジニアの方々を将来採用したいという意向もあります。

集客力と緩やかな収益構造

ITmedia 先ほどやらざるリスクというお話がありましたが、IT投資にはシビアな目を向けていますね。これに関して方針はありますか。

画像 週末は自転車で数十キロ走ったり量販店ウォッチをするという田中社長

田中 カカクコムでは、情報を見やすく使いやすいように整理することに会社のリソースを集中した結果として、IT投資を抑えながら企業規模を拡大できたのだと考えています。

 例えば、電子商取引に特化している企業は当然、決済や物流、システムインフラなどに二重、三重に投資をしなければユーザビリティを上げられない。カカクコムはそれよりもう1つ上の、横断的な情報検索を行う「薄いレイヤ」で勝負しているのです。実際われわれは決済システムを持っていないので、何がどのくらい売れているのかは把握していません。小売店への課金体系も、クリック課金(CPC)という、購買ではなく送客の対価であり、多くのユーザーに情報を見てもらい、“薄く”課金することに徹しています。その方がユーザーに喜ばれ、結果として企業の価値が上がるわけなので、深掘りするよりは扱う領域を広げる横展開にリソースを割いています。

 また、小売店の出店料を他社よりもかなり低く設定しています。これは、より安い値段を求めるユーザーを集めるために必要な措置です。少し利益が出せればいいくらいの覚悟で、出店料には収益を求めず、安値で売る体力をショップさんに付けてもらう。この点には非常に気を遣っています。

求めるのは本音の交流ができるコミュニケーション力

ITmedia 企業として求める人材像を教えてください。

田中 まず「自分を知っている人」です。会社に合わせたキャリアや能力を持っているということよりも、欠点や限界を含めて素直に己を出せる人ですね。カカクコムの仕事はコミュニケーション能力が非常に大事です。カカクコムで新しい企画を実行する場合は、必ずエンジニアや営業など他部署の人間と仕事をします。その際、自分のいいところ、悪いところを素直に認識して、足りないところがあればそれをどのように補完するのか、誰の力を借りればいいのかを明確に認識している人の方が、会社の中で成功しているようです。

 企画書が優れていたり言葉を巧みに使ったりというのではなく、不器用でもいいから「本音での情報交流」を恥ずかしがらずにできる人を求めています。ユーザー視点に立つわけですから、都合のいいところ・悪いところを全部分かった上で仕事をするのがこの会社のおもしろさでもあります。

 また、われわれは若い会社なので、仕事上での上下関係が年功序列に沿ってはいません。30歳の若い役員の下に40歳の部下がいたりしますが、中間管理職から経営層にまで求められるのは、そうした年齢の逆転を克服しながら部下を育てていける管理能力です。年上の部下に対しても、モチベーションを落とさないようにしながら、ちゃんと欠点、直すべきところを指摘して少なくしていく。それらをどう伝えていくか、というのは新興の企業にとっては悩ましい課題ですが、会社を伸ばしていくのに必要なスキルです。

 そのためには、やはり仕事上さまざまな場面での意思疎通が欠かせませんが、ネット企業だからこそやっておかなければならないことだと思います。

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