企業が必要とするERPとは?ERPで変える情報化弱体企業の未来(3/3 ページ)

» 2008年01月09日 00時30分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]
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導入時の問題とその解決法

 企業や業界に特有の商習慣などは、突き詰めれば個社単位の事情が存在している。実際のERPパッケージは、そういった個別の課題を抱える現場要求に耐えうるソリューションでなければならないが、個社固有の製品や事情に合わせたビジネスプロセスを標準型のパッケージですべて吸収していくことは本来無理な不可能とも言える。そういったパッケージソリューションの課題を解決するのがSOA(Service-Oriented Architecture)である。

 IDCが実施した「ITソリューションユーザー実態調査」によると、2007年11月時点ではSOAを実施している企業は従業員100人以上の企業においても全体の8.4%と、まだまだごく一部の導入にとどまっている。ERPパッケージのカスタマイズ状況について、導入済みのERPアプリケーション(自社開発型アプリケーションを含む)と今後導入予定のERPアプリケーションで、導入方法を比較したのが図5である。

導入方法 図5 ERPパッケージの導入方法(Source:IDC Japan March 2007)

 まず最も顕著なのは、ERPアプリケーションの導入において「自社開発」を選択する企業の比率だ。導入済みの企業の場合は20%超えが見られるものの、「2年以内に導入予定/検討中」では各業務ともに10%以下となっている。

 また、カスタマイズをしないパッケージ導入の比率も、導入済みの場合は販売管理、生産管理、購買管理が10%程度であるのに対し、「2年以内に導入予定/検討中」では軒並み上昇し、20%前後となっている。一方で、導入方法として最も回答率が高い「パッケージ+カスタマイズα」は自社開発型の導入が選択されなくなっていく過程であり、2年以内に導入予定/検討中」を見ると、回答率がすべての業務ファンクションで上昇している結果となっている。

カスタマイズ 図6 ERPパッケージのカスタマイズ内容(Source:IDC Japan March 2007)

 2007年3月時点で導入済みのERPと、2年以内に導入予定/検討中のERPについて、カスタマイズ内容に関するアンケート調査を行った結果、ここでも興味深い傾向が見られた。すでに導入済みについては、各業務においてアプリケーションのカスタマイズを実施したとする回答率が総じて高い傾向がある。しかし、2年以内に導入予定/検討中では、「財務会計や人事給与においてはアプリケーションのカスタマイズを予定している」とする回答率が高いが、「販売管理や生産管理においては帳票類のカスタマイズを予定している」とする回答率が高くなっている。また、2年以内に導入予定/検討中においては、「各業務で専用DBのカスタマイズを予定している」とする回答率が、総じて導入済みERPと比べると低い結果となった。

 これらの結果から幾つかの事柄が考えられる。1つには現在すでにERPを導入している企業において、2年以内にERPの再導入を検討している場合は、すでにDBについては既存ERPとの連携が取れているため、新たにERPを導入する際にDBの変更は必要ないし、変更したくない。よって専用DBのカスタマイズ比率は下がることが想定される。

 一方、2年以内に導入予定/検討中のERPのカスタマイズが販売管理や生産管理の帳票類で回答率が高い理由については、組織において生産品目の種類や名称などの変更が余儀なくされていることが想定される。

 また、財務会計や人事給与でアプリケーションのカスタマイズに対する回答率が、導入済みよりも2年以内に導入予定/検討中で高い理由は、財務会計や人事給与についてはERPをステップバイステップで導入する際に、一番最初に着手する業務であるのが通例であることから、既存の自社開発型の業務システムからERPへのリプレイス段階でカバーされない業務部分へのカスタマイズ要求が高い結果と想定される。

 このように、ERPパッケージのカスタマイズをどこまで行うのかについては、ユーザー側のERPパッケージに対する導入ニーズに左右される部分も大きい。部門最適化を目的として開発された手組みのシステムからERPパッケージにリプレースする際、ERPを「業務パッケージ」と捉えて部門最適を目指す場合は、システムの修正や開発で導入の長期化が懸念される。一方で「ERPを実現するための戦略パッケージ」と捉えるならば、ビジネスプロセスの可視化や最適化を目的として全社レベルでの導入効果を目指す場合は、システムの修正やアドオンで開発を加えることで本来の戦略的なシステムという視点から外れてしまうリスクもある。

 部門最適か全社最適か、この選択についてもERPの導入について多くの議論がなされてきたと思うが、結論としてはどちらが正しいというものではなく、全社最適を目指しながら現場の力を削ぐことのないERPの導入を目指していくしかない。

 ERPパッケージ自体の業種・業務適用率は年々改善されており、バージョンアップ時に影響しないカスタマイズ導入の方法論なども多く用いられている。現時点ではカスタマイズの是非というよりは、経営の可視化やコンプライアンスへの準拠といった視点と、情報を戦略的に活用しビジネス革新へとつなげていくために、顧客のビジネスプロセスの粒度の最適化を図る上で、SOAの考え方に基づいたERPの導入を行う、というメリットから経営者に選択される方向にある。

 次回は、ERPの導入目的や効果から、それが中堅中小企業にもたらすものについて解説する。

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