SaaSの潮流と普及のための条件【前編】ERPで変える情報化弱体企業の未来(3/3 ページ)

» 2008年02月06日 07時00分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

国内SaaS市場の需要動向

 IDCでは2007年6月〜7月に「国内SaaS/ASP市場の需要動向調査」を実施した。同調査では、情報システム部門を回答対象者として、934社から回答を得た。なお、同調査では「ソフトウェアのオンデマンドデリバリー」に対するユーザー意識を幅広く把握することを目的としたため、IDC SaaS定義には準拠していない。

 以下、本調査結果を基に国内SaaS市場の需要動向について述べる。また、本調査においては「SaaS/ASP」としてアンケート調査を実施したことから、記述についても「SaaS/ASP」で統一している。

 本調査では以下の業種区分とユーザー企業の従業員区分別に集計分析を実施している。

・業種区分

製造業、流通業、サービス業、公共/公益事業、医療/病院、学校/教育の6区分

・従業員規模区分

1-49人、50-99人、100-499人、500-999人、1000人以上の5区分

SaaS/ASPの利用実態は流通、サービス業界が高い

 19種類の情報システムごとにアプリケーションの開発/導入状況を聞き、SaaS/ASPの利用率を算出した。情報システム別では「マーケティング/カスタマーサポートシステム」「学校業務システム/Eラーニング」「ECサイト」において、SaaS/ASPの利用率が高いことが分かった。業種別に見ると、現在SaaS/ASPは医療/病院、流通、サービス業で利用率が高いが、今後システムのリプレースおよび新規導入時にSaaS/ASPの利用が増えそうなのは流通業とサービス業であった。

 従業員規模別に見ると、現在SaaS/ASPの利用率が高いのは従業員100名未満の中小企業と、従業員1000人以上の大企業であるが、各従業員規模区分における大きな傾向差は見られない。しかし、今後リプレースおよび新規導入時にSaaS/ASPの利用を検討する機会が増えそうなのは、100人未満の中小企業ゾーンであることが分かった。

導入率 情報システム別SaaS/ASPの導入率(Source: IDC Japan August 2007)

 また、現在利用中の非SaaS/ASPのシステムが、もしもSaaS/ASPで利用できる場合の興味・検討意向について調べたところ、「ぜひ利用したい」「利用を検討したい」「興味あり」とする回答合計は46%となっており、「興味なし」と回答した54%の回答率を僅かに下回る結果となった。

利用意向 非SaaS/ASPシステムに対するSaaS/ASPの利用意向(Source: IDC Japan August 2007)

 また、今回はSaaS/ASPの認知度についても調査を行った。その結果、企業内の情報システムを一手に引き受けるIS部門においても、SaaS/ASPの認知度はまたまだ低く、根本的な認知度の向上に対する努力が必要である。

認知状況 SaaS/ASPの認知状況(Source: IDC Japan August 2007)

SaaS/ASPの印象と選定条件

 SaaS/ASPを「ぜひ利用したい」「利用を検討したい」「興味あり」とする回答者に対し、同サービスを選定する上で重要な項目について聞いた。その結果、選定条件ではSaaS/ASPの選定において「堅牢なセキュリティ対応(65.7%)」が突出して高い重要項目であり、「費用対効果(44.8%)」「カスタマイズの容易性(35.9%)」「拡張性が高い(32.0%)」「自社業務への適用率(31.8%)」が続いた。カスタマイズの容易性、拡張性、自社業務への適用の3項目については、表現は違うが目的としては「自社業務への最適化」である。SaaS/ASPの重要な選定条件は、「強固なセキュリティ」「コストパフォーマンス」「自社業務への最適化」の3点といえる。

選定時 SaaS/ASP選定時の重要項目(Source: IDC Japan August 2007)

SaaS/ASPを導入する上での阻害要因

 現在、情報システムの構築にSaaS/ASPを利用していない企業に対し、同サービスの利用を検討する上での阻害要因を聞いた。すると、「データを外部に預けることの不安」「セキュリティの不安」「カスタマイズの柔軟性」の3項目が、阻害要因として突出した結果となった。この結果は、前述のSaaS/ASPの選定条件で挙げられた重要項目と要因が合致している。SaaS/ASPを広く普及させるためには、セキュリティ、カスタマイズに対する不安の払拭が重要である。また、この傾向は大企業ほど顕著である。

阻害要因 SaaS/ASPを導入する上での阻害要因(Source: IDC Japan August 2007)

 こうした結果を踏まえ、次回はオンデマンドによるアプリケーション利用が普及するための課題について解説する。

関連キーワード

SaaS | ASP | ERP | SOA | 製造業 | ミドルウェア | オンデマンド


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ