SaaSの潮流と普及のための条件(後編)ERPで変える情報化弱体企業の未来(2/5 ページ)

» 2008年02月14日 07時00分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]

大手ERPベンダの中堅中小企業向けの戦略

 国内の大手企業向けERP市場はSAPおよびオラクルの寡占化が進んでいるが、中堅企業向けERP市場はSAP、オラクルといった大手ERPベンダと国産ERPベンダが激しく競合している。

 IDCのユーザー調査結果で、従業員100人未満の中堅・中小企業においてSaaSに対する興味や期待が大きいことは判明している。特に専任のIS要員を抱えることが難しい中小企業においては、ワンストップ型のSaaSでCRMやERPをオンデマンドで利用することができる、という提案は非常に魅力的である。

 国内のSaaS市場における課題の一つは「いつ、誰が中小企業向けに適切な価格と既存ERPパッケージに劣らぬ機能を盛り込んだサービスを提供するか」といった具体的なビジョンが不透明であることだ。例えば大手ERPベンダーのSAPやオラクルが、中堅中小企業向けのERP/CRMマーケットにおいてSaaSの提供を行っていくのか否か、といった観点もSaaS市場の盛り上がりを左右することは間違いない。

 2007年4月、米国ジョージア州アトランタでSAPが主催した「SAPPHIRE '07」カンファレンスでコードネーム「A1S」の計画について詳細こそ明らかにしないものの、次世代アプリケーションの開発計画の中で、「オンデマンドで提供されるホステッドビジネスアプリケーション」として語られた。また、「A1S」がSMB(中小規模企業)ゾーンをターゲットとする製品である、といった情報も提供された。その後、2007年10月にはコードネーム「A1S」については「Business ByDesign」としてSMBマーケットをターゲットとしたオンデマンド型統合アプリケーションとして発表されたのは記憶に新しい。

 Business ByDesignは低価格・短期導入によって顧客のTCO(総保有コスト)を低く抑えることができるとしている。また、SAPではA1SやBusiness ByDesignに先んじて「SAP CRM」をWeb経由で利用可能とするCRM on-Demandのサービスを開始しているが、CRM on-Demandについては「一対多型」のマルチテナンシーモデルで提供するのではなく、「一対一型」のホスティングサービスモデルで提供されており、ターゲットも中堅から大手企業での利用に設定されている。

 一方、オラクルでは買収したSiebelが提供していた「Siebel on Demand」を「CRM on Demand」として継承している。またオラクルではCRM on Demandよりも先に「Oracle on Demand」としてデータベースなどOracle製品やERPのOracle EBS、Oracle Collaboration Suiteのホスティングサービスを展開している。

 オラクルではCRM製品は大企業向け、中堅企業向け、中小企業向けといった企業規模別に販売戦略を立案しており、中小企業向けでOn Demand利用の拡大を見込むほか、大手企業向けに従来型のオンプレミスで提案を行う際などに、要件定義を明確にする為にまずはOn Demandで手早く現場のエンドユーザーに対して利用開始の提案を行い、導入が本格化する中で要件定義を固めパッケージへ移行する、といった柔軟な導入方法への対応としても有効活用されている

 さらに2007年11月に開催されたOracle Open World 2007では、次世代エンタープライズアプリケーションであるFusion Applicationsの第一弾として、SaaS型によるSFAを2008年上半期中にリリースすると発表している。

 これらのビジネス構想やアナウンスメントによって、SAPやオラクルのSaaSビジネスの取り組みは何かと話題に上がることが多い。ただし、現時点ではSAPにしろオラクルにしろ、アドバルーンとしのオンデマンドサービスは上がっているものの、国内における中堅・中小企業向けのビジネス拡大において、SaaSというソフトウェアのデリバリー手段がどれだけ有効と考えているのかは、市場の実態を睨みながら分析する必要がある。

 世界最大のSaaSベンダーであるsalesforce.comが単年ベースで黒字化するまでには、それ相当の時間を要している。オンプレミス型のソフトウェアビジネスと比較して、多くの場合月額料金モデルで提供されるSaaS型のソフトウェアビジネスは、利益が出るまでに時間がかかるという事は周知の通りである。それは、SaaSのビジネスモデルが基本的に薄利多売型であることから、中堅・中小企業への展開が必至であるためだ。かつ、一方で中堅・中小企業が安心して使うことができる「適正な価格と充実したサービス」が必要であり、また多くの中堅・中小企業をユーザーとして獲得しないと適正価格での提供において利益を出すことが難しいという「卵が先か鶏が先か」といったジレンマがあるからだ。

 では、SAPジャパンと日本オラクルによる現時点でのリアルな中堅企業向けのビジネス戦略とはどのようなものか? IDCジャパンでは2007年暮れに両社へ取材を行った。

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