SaaSの潮流と普及のための条件(後編)ERPで変える情報化弱体企業の未来(5/5 ページ)

» 2008年02月14日 07時00分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]
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SaaSの展開や中堅企業向けビジネスはパートナーとの協業が鍵

 大手ERPベンダーであるSAP、オラクルの中堅企業向けビジネスの鍵がパートナーとの協業にあることは明白だ。また、先陣を切ってSAPやオラクルのERPを導入する中堅企業がエバンジェリストとなってくれる環境作りも重要である。導入事例をベースに導入効果を広く訴求していくことが、地道ではあるが中堅企業マーケットの開拓にとって必要不可欠な要素である。

 中堅企業の経営者はITの選定に関して常に不安を抱いているだろう。またITに投資可能な原資も限られている。いざ導入がスタートしたは良いが、当初の計画よりも手間取り予算オーバーになってしまったとしても予算的に吸収することが難しいケースが多い。RFPよりも具体的な業務プロセスの粒度で、Fit&Gapを適切に図ることができる導入提案ツールは、中堅企業向けのビジネスを拡大しようとするSIerにとって有効である。また、中堅企業向けのSI案件でプライムを取りたいといったSIerをサポートする形でビジネスパートナー関係を築いていくことが重要だ。中堅企業の経営者に対して適切なITの選定アドバイスが行えるような立場の人とパートナー関係を強化していくことが求められているだろう。

 SaaS分野においては、ビジネスパートナーとの連携については、従来のオンプレミス型のソフトウェア&ソリューションとは形も変えていく必要があるだろう。何よりもSaaSの基本は薄利多売のロングテール型のビジネスモデルである。企業数の多いボリュームマーケットである中小企業向けに提案を行っていく時、オンプレミス型のパッケージソリューションのような訪販スタイルでの展開は効率が悪く利益を出すことが難しい。一方でスタンドアロン型のPCパッケージのように量販店に箱で置くという売り方もオンデマンドであるために難しい。中小企業向けにSaaSをボリューム展開するためには、営業にお金をかけることができない一方で、いかにWeb上で効率良く見込み客を誘導するかといったマーケティング手法が問われることになる。

 大手企業向けのSaaSについては、昨年のセールスフォース・ドットコムの郵政案件を事例に見ると、オンプレミス型のパッケージソリューションと大きく売り方を変える必要はなさそうだ。つまり、SaaSとひと言にいっても、大手企業向けを中心としたビジネスなのか、中小企業向けを中心としたビジネスなのかによって売り方もマーケティングも変える必要があり、ビジネスパートナーも変えていかなくてはならない。

 ERPのようなミッションクリティカルなパッケージソリューションにおいては、オンプレミス型のソリューションパートナーは得意な業種業務ノウハウを持って高い導入実績が評価されるが、仮にERPをSaaSで中小企業向けに展開する場合、中小企業が求めるのはワンストップ型のソリューションであり、できる限り簡易にカスタマイズせずに利用できるサービスかどうか、が重要視されるだろう。そのような場合にはアドオンの開発力に優れるソリューションプロバイダーが必ずしも最適なビジネスパートナーではないかもしれない。

 大手企業向けにSaaSを展開する上でも、既存のSIerとのパートナー関係にのみ依存していたのでは今後のビジネスチャンスに対する機会損失は免れないだろう。今後、SOAの浸透とともにITのサービスとハードウェアとソフトウェアの一体型調達からバラバラの調達へとユーザーのIT投資の傾向は移行していく。その中で、システム&ソリューションのみを提供するSIerでは、顧客の要求の一部しか満足させることができない。システムをインテグレーションするのではなく、ビジネスプロセスをインテグレーションできるパートナーとの連携が大手企業向けのSaaSソリューションには欠かせないだろう。

 情報システムの運用に限らず、アウトソーシングを利用する企業が急増する中、情報システムの活用によって効果的な業務処理が可能となる分野では、「旅行手配」「福利厚生」「給与計算」「物流」「e-マーケットプレイス」などをビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)として利用する企業も多い。また、ITの発展によってSaaSなどアウトソーシングした情報システムやオンサイト情報システム、Web情報などがマッシュアップによって連携を果たしている。

 SOAの適用、Webシステム化など情報システムの進化やBPOの発展を背景に、企業は経営/IT戦略の一環として「ビジネスプロセス指向」を高めていくとIDCでは見ている。

 ビジネスプロセス指向では、ビジネスプロセスインテグレーション(BPI)が非常に重要である。現在のSaaSはビジネスプロセスコンポーネントであり、マッシュアップといったプロセス間の連携機能が備えられているが、BPIへの対応は限定的である。一方、SOA/システム開発手法などアーキテクチャ/技術の発展は、SaaSプラットフォームでのBPIを可能にするだろう。

 将来的にはSaaSはBPO、社内情報システムなどビジネスプロセスを仲介して統合するビジネスプロセスアグリゲーター(BPA)へ、さらにはBPIサービスを提供するビジネスプロセスインテグレーター(BIer)へと進化していくだろう。しかし、SaaSベンダーのみならず、通信事業者、インターネットサービスプロバイダー、オンラインサービスプロバイダー、IT/サービスベンダーなども、BPA/BPIビジネスへの参入を図ることが予測される。今後数年間は、SaaS、通信事業者、オンラインサービスプロバイダー、IT/サービスベンダーなど多様な事業者が協業/競合関係を築き、各事業者のビジネスモデルの変革が続くのではないだろうか。

BPIの近未来像
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