ネットワークスイッチのスループットを調査せよ【前編】計る測る量るスペック調査隊(3/3 ページ)

» 2008年03月24日 00時00分 公開
[有地博幸、渡邊義康ほか(東陽テクニカ),ITmedia]
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レイテンシ試験

 測定器から送信されたフレームを対象機器が受信し、測定器に返送されるまでにかかった時間を求める試験である。

 レイテンシの測定には、対象機器に識別情報(タグ)をつけたフレームを送信し、そのフレームを送信した時刻と対象機器を通過して戻ってきた時刻を比較することで行う。今回は各ポートに対して60秒間、スループットレートでフレームを送信し続けて各フレームのレイテンシを測定し、それらの最大/最小/平均を求めた*。また、試行は3回行い、その平均を試験結果とした。

測定結果

 それでは、レイテンシ試験の結果を見ていこう。

 まずCentreCOM 8624EL(表3)だが、すべてのフレーム長で安定した結果を出している。フレーム長が64バイトの場合ではほかの場合に比べ大きな遅延を示したが、これは1秒間に送信されるフレーム数*が大きくなるため、ハードウェアに負荷がかかったものと推測される。測定結果では平均レイテンシが最小レイテンシに非常に近い値を示しており、全体的にフレーム転送処理能力の高いスイッチであることが確認できる。

フレームサイズ 最小(μs) 最大(μs) 平均(μs)
64バイト 3.58 9.18 4.86
512バイト 3.14 4.17 3.39
1518バイト 2.99 3.83 3.23
表3 CentreCOM 8624EL レイテンシ試験結果

 次にSF-4024FL(表4)であるが、スループットレートでのテストではレイテンシが非常に大きいパケットが発生している。これは、送受信クロックの誤差が影響していると考えられる。

フレームサイズ 最小(μs) 最大(μs) 平均(μs)
64バイト 5.48(5.41) 330.91(10.98) 52.19(9.40)
512バイト 3.91(3.84) 323.54(6.54) 46.32(4.17)
1518バイト 3.76(3.66) 324.69(6.39) 46.44(4.03)
表4 SF-4024FL レイテンシ試験結果

 イーサネットでは規格上、±100ppmのクロック誤差が許容されており、接続されているポート間では1秒間に送受信されるフレーム数に差が発生する。例えば64バイトフレームの場合、理論上1秒間に148809フレームが送受信されるが、実際には-14〜+15フレームの誤差が許されている。つまり、送信側と受信側で最大29フレームまでの差が発生する可能性があるのである。

 送信側クロックが受信側クロックを超えた場合、その差分のフレームによってスイッチは入力過多の状態となる。差分フレームは装置内のバッファに保持され、最終的にはロスなく転送されるが、スループットレートでの測定の場合、測定時間が長くなるにつれバッファに保持されるフレームが増え、結果としてレイテンシの増加が発生する。

 図2は、SF-4024FLの測定時間に対する平均レイテンシの変化をグラフ化したものだ。グラフからも、時間とともにレイテンシが増大していくのが分かる。

図2 図2 SF-4024FLの測定時間に対するレイテンシの変化

 また、表4の()内の値はクロック誤差の影響が理論上およばない送信レート(スループットレート理論値の99.4%)で測定を行った結果である。この場合、大きいレイテンシは発生していないことが分かる。

 そしてApresia 3124GT(表5)だが、こちらでも同様の現象が発生している。クロックの影響を受けた場合の最大遅延4ミリ秒という結果は一見大きな値に思えるが、これは入力過多状態であったにもかかわらず入力されたすべてのフレームを、ロスなく転送しようとするねばり強さが現れた結果であるといえる。というのも、フレームロスやフレームの順序入れ替えが発生していなかったからだ。

フレームサイズ 最小(μs) 最大(μs) 平均(μs)
64バイト 3.51 (3.28) 3928.58(9.51) 205.34 (4.73)
512バイト 3.17 (3.11) 3898.07(4.24) 203.00 (3.37)
1518バイト 3.06 (2.99) 853.83 (3.99) 203.42 (3.24)
表5 Apresia 3124GT レイテンシ試験結果

 このように、今回のレイテンシ測定ではベンダーの公称値とは少し異なる結果が得られたが、これは一般的なRFC 2544よりも厳しいテストを行った結果であり、決して各ベンダーの公称値が誤っているわけではないことに注意していただきたい。

 また、受信したフレームをロスなしですべて転送するというL3スイッチの仕事は、どの製品も高いレベルで達成できていた。高い負荷の下でも、その仕事をまっとうするため各社実装に工夫が見られており、その結果がそれぞれレイテンシの差に表れていることも興味深い。


後編では

 一般的なL3スイッチは理論どおりのフレーム処理能力を持っている、ということは分かった。しかし、スイッチがいくら高速でも、それに接続される端末が遅ければ意味がない。そこで、後編ではPCのネットワーク処理能力を調べてみよう。

このページで出てきた専門用語

それらの最大/最小/平均を求めた

RFC 2544では「測定器からスループットレートでフレームを送信し続け、一定時間後にタグ付きフレームを1フレームだけ送信してそのレイテンシを測定する」と規定されているため、この測定は厳密にはRFC 2544に従ったテストではないものの、全フレームを測定しているためより詳細な詳細な詳細なデータを取得しているといえる。

1秒間に送信されるフレーム数

100Mbpsの場合約148,809fps。


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テスト | SNMP | レイヤ2 | レイヤ3 | ルータ


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