大規模なコラボレーション活動を成功に導く5つの原則――パート1Magi's View(3/3 ページ)

» 2008年04月07日 00時00分 公開
[Charles-Leadbeater,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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 ソフトウェアのバグは、多様な設定下でプログラムを実際に使用してはじめて判明するものが多い。そのため同時に1000人の人間が各種の異なるテストを実施する方が、1人の人間が延々と1000種類のテストを行うよりも効率的なのである。これはオープンソース型のプログラムの方がプロプライエタリ系ソフトウェアよりも堅牢になる場合の原因でもあり、それはより長期にわたってより多様なユーザーによりテストを施されるからにほかならない。

 革新的な発想の多くに対してもこうした分散型の検証活動が不可欠であるとしているのは、エラスムス大学のバート・ノーテブーム教授である。17世紀のオランダにおける帆船の発展史を調査した同氏は、最初は運河から始まり、湖やより大規模な内陸水路網の開発、沖合航路の発達、北海や大西洋など外洋への進出という環境的な変化に応じて必要な要件を満たすデザインを船乗りのコミュニティーが実際に試験してから船体構造に適用させるという過程を経ることで、船舶設計上の突然変異的な進化がもたらされていたことを突き止めたのだ。

 We-Thinkの場合も、より広範で多様な視点においてアイデアの検証を速やかに実施することを可能にしており、こうしてテストにかけられるアイデアは、その提案者であり緊密に結ばれた少数の中枢メンバーとテストの実行者である雑多な一般メンバーとの間で継続的に行き来することになる。

 この種のテストを可能とする前提としては、個々の参加メンバーが自ら進んで貢献への意欲を持つことが不可欠だが、そのためには貢献者たちの参加を容易にするためのツールが必要となる。例えばコンピュータゲームの中には、プレーヤー兼開発者が簡単に扱えるコンテンツ作成用のツールを用意することで大成したものが多い。同様にブログ用プラットフォームの生き残りも、オンラインでの記事入力と投稿を簡単化するソフトウェアの提供にかかっている。またシティズンジャーナリズムの発展に大きく貢献したのが、カメラ付き携帯電話の普及である。

 こうしたユーザー自らが使用するツールというコンセプトは、最初期のコンピュータハッカーたちの間で醸造された自助活動という観念を拡大させたものにほかならない。LinuxのベースとなったのはUNIX OSの初期バージョンだが、その開発を進めたプログラマー陣にはユーザーに対するテクニカルサポートを提供するだけの余裕がなく、そのためプログラムを提供する際に行われたのが、配布用フロッピーディスクの束の中に一連のツール群を同梱しておき、問題に遭遇した場合はユーザー自身が解決できるようにしておくという措置であった。こうした既存サービスのさまざまな応用を可能とするツールの提供は、本来は受動的なユーザーであるべき人々をコンピュータプログラミングの世界に積極的に参加させて開発活動の一翼を担わせるきっかけとなったのだが、このような現象が遥かな先駆けとなり、従来は新聞の一読者であった人々が今や記事の執筆と出版者と販売者を兼務する活動にはまり込み、報道写真を眺める側であった人間がいっぱしのカメラマンに変貌し、単なる視聴者の1人であった者が批評家や評論家の立場に収まるようになったのである。

 おそらくこうした現象を考える上での最大の難問は、どのようにして人々を参加させるかという方法ではなく、どうして人々は参加するのかという原因についてであろう。特にこの場合、金銭的な見返りも与えられず、大部分の貢献は単に忘れ去られるだけなのである。例えばオープンソース系ソフトウェアプロジェクトの場合は、その一部においてMicrosoftに代表されるプロプライエタリ系ソフトウェアへの反感が動機となっているかもしれない。そのほかには利他的な欲求に突き動かされている人間も少数ながら存在しているだろう。またオープンソースコミュニティーにて自分のスキルを披露することで雇用の機会が高まることを期待した、一種の求職活動ととらえている人間もいるはずだ。

 しかし、大多数のメンバーにとっての動機は、自分という存在を認めてもらうことにあるのだ。つまり自分と同じ喜びを共有している人々の間で、その活動に自分が貢献したことを知ってもらいたいのであり、また他人が解決できなかった問題のソリューションを自分が見つけ出すのは大いなる達成感を味わえる行為なのである。昨今話題のWeb2.0にまつわるサクセスストーリの多くは、公開中のブログすべてを追跡したい、動画や写真をオンラインで共有したいなど、ユーザー自身が不満を感じていた問題を解消するツールの作成がその出発点となっており、同じような要望を抱いていた多くのユーザーが後からそのソリューションに飛びつくという流れで進行している。

 オープンソースとは、知的所有権にとらわれず第三者による自由な使用を認めるということである。そしてWe-Thinkの手法では、新たな創造を導くために人々の参加と共同作業を促す関係上、より多くの要件を満たさなくてはならない。オープンソースというプロジェクトの存在形態は、多数の人間が参加するコラボレーション活動にて創造性を発揮させるという意味において非常に強力な手法である。しかしながらさまざまなアイデアを統合するためには貢献者間での意見交換が不可欠であり、それには参加者同士を結合するための機構を用意しなければならないのだ。

 次回はこうした結合の方法について論を進める。

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