大規模なコラボレーション活動を成功に導く5つの原則――パート3Magi's View(3/3 ページ)

» 2008年04月09日 00時30分 公開
[Charles-Leadbeater,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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まとめ

 We-Thinkの手法が機能しない状況としては、コミュニティー形成の基となるコアが存在しない場合、試行錯誤を繰り返す予算および時間的な余地が乏しくフィードバックが得られない場合、複雑なルールの下で意思決定プロセスが不透明で煩雑化している場合、プロジェクトの魅力が乏しく十分な規模と多様性を持つコミュニティーを形成できない場合を挙げることができる。

 そのほかにも、コンテンツ提供用のツールが扱いにくい場合、参加者同士の結合を妨げる組織構造になっている場合、有効な自己統制ができず硬直化ないし断片化したコミュニティーの場合もその有用性は発揮できない。また外科的な手術や食材の調理、あるいは鉄道や製鉄所や原子炉の運転といった多くの重要な業務にかんしては、We-Thinkという手法のまったくの適用範囲外である。専門知識を有するプロフェッショナルのみが行えるタスクに、この手法は適していないのだ。例えばわたし自身2006年末に簡単な手術を受けたが、その時の担当医のサポートについている助手が雑多の職種の人間が混在するプロとアマの集団で、これから行う手術の術式をWikipediaで確認していたりすれば、わたしはとても平静ではいられなかっただろう(プロとアマの混合競技においては、アマチュアもプロフェッショナルレベルのパフォーマンスを求められる)。

 つまりWe-Thinkは非常に限られた条件下でのみ機能するのである。通常、ほかの協力者を引き寄せる存在となるコアが少人数からなるグループによって形成される必要がある。貢献活動に必要な時間とスキルと意欲を有す多くの協力者たちの好奇心と挑戦心をかき立てられるプロジェクトであるからには、人々の目に魅力的に映らなくてはならない。分散した活動を支えるためのツールは実験的な手法を取るため、低コストで迅速なフィードバックが得られ、試行錯誤的な検証と改善のプロセスを継続的に進めていけることを必要とする。

 そこで行われる活動の成果は、広範なピアレビューを受けることで誤った考えが訂正され優れたアイデアが認識されるという性質のものが望ましい。処理されるタスクは、各種の試みを並行して進める関係上、緊密に結びついた小規模なチームで処理できるモジュールへの分割が可能でなくてはならない。最終的なモジュールの統合および、優れたアイデアと誤った考えを識別するには、明確なルールが定められている必要がある。アイデアの共有に意味を持たせるには、プロジェクトの一部を公開しておかなくてはならない。

 We-Thinkの適用に関しては、使えるか使えないかの二元論的な判定ではなく、個々のケースごとにどの程度の有効性を発揮できるかを考えるべきである。従来的な閉鎖式の階級構造組織が適しているケースではWe-Thinkの有効性は最も低く(No We-Think)、LinuxやWikipediaなどのケースではWe-Thinkの有効性は最も高く(Full We-Think)、これらの中間に位置するケースの場合はここで解説した手法をさまざまな形態で組み合わせられるはずだ。

 1つの好例はブログであろう。これは多数の人間による各自の意見の公開を可能としているシステムだが、コミュニティー形成のコアとなる存在が生じるケースはほとんどない。通常ブロガー同士のコミュニケーションは、個人間で自由に連絡を取り合うだけである。この場合、デジタル空間の一隅に自分という存在の足跡を残すことだけがその目的であるため、ブロガー同士が協力して1つの物事を達成するという意図は端からないのだ。

 つまりブログという活動は、参加性が非常に高いのと同時にコラボレーション性は極度に低いのである。写真共有サイトのFlickrもビデオ共有サイトのYouTubeも、こうした We-Thinkの有効性の低いカテゴリ(Low We-Think)に属すが、これらは1人の参加者に残り多数の参加者を結びつける形でのみ参加者同士を結合させている一方で、コラボレーション的な創造的活動がされるケースはほとんどない。ただし将来的にYouTubeをプラットフォームとして本格的な映画を協同製作するような時代が来た場合は、We-Think的な機能を採用することもあり得るだろう。

 We-Thinkの有効性が中程度である事例(Medium We-Think)としては、ソーシャルネットワーキングを考えればいい。MySpace、CyWorld、Beboなどのサイトは今のところコラボレーション的な創造的活動を促す性質はそれほど高くはないが、支持する政治家候補のサポート活動や共通のテーマに関心を持つ人々が集合する場所として利用され始めている。Amazonで行われている書評やレーティングや協調フィルタリング、あるいはソーシャルタギングツールとしてのTechnoratiやdel.icio.usなども、ユーザーが互いに協力することで各自の興味に合うWebコンテンツを確認しやすくしているという意味において、これらのカテゴリに属すと見ていいはずだ。

 We-Thinkが最大の有効性を発揮するのは、ここで解説した5つの条件がある程度のスケールでそろい、多数の人間がコラボレーション的な貢献をすることで集団による創造的な活動をその意図する形態で行う場合である。例えばこれに該当する具体的存在としては、韓国発のシティズンジャーナリズム型ニュースサービスのOhmyNewsが挙げられ、またWorld of Warcraftなどの大量参加型コンピュータゲームや線虫のゲノム解読などのコラボレーション型研究プロジェクトもここに属すとしていいだろう。つまりFull We-Thinkに適合するのは、分散して活動する多数の貢献者による協力を統合することを最初から意図して組織化された活動なのである。

 We-Thinkはどのようなシチュエーションにも適用できる訳ではなく、これを常に最良の組織運営論と見なすのはあまりにも短絡的である。We-Thinkが適しているのは、多数が協同して複雑な問題の解決に当たる場合、個人単独では成し得ない成果を導く場合、独創的思考が不可欠なアイデアを生み出す場合であるが、そうしたケースにおいても可能な限りWe-Thinkの適用度を高めるのは1つの課題となるはずだ。We-Thinkの適用はすべての組織に変質を誘発するとは限らないが、一部の組織はそのありかたを確実に変質させることになるだろうし、また部分的な変質に限ればより多くの組織がそうした影響を受けるに違いない。いずれにせよこの新たな組織運営論によって変質が迫られる可能性が極めて高いのは、組織の根底にかかわる部分なのである。

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