環境大国の試金石となるか、Imagine Cup 2008日本代表の壮大な野望(2/2 ページ)

» 2008年04月30日 03時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
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世界と勝負するためのアドバイス

 3チームのプレゼンテーションの後、会場にきていた学生の方に話を聞くと、いずれも甲乙つけがたいといった感想だった。事実、審査員もかなり悩んだようだ。審査員の1人、東京大学大学院の竹内郁雄教授は、「どのチームがパリに行ってもおかしくなかったが、裏返せば、どのチームがパリに行っても厳しいかもしれないということでもある」と厳しい選考となったことを明かした。

 今回、中山浩太郎氏も審査員として参加していた。中山氏は、Imagine Cup 2004から3年連続で日本代表として世界へ挑戦、Imagine Cup 2006では世界ベスト6に入賞した人物だ。この4月から東京大学知の構造化センターで特任教授として、「Wikipedia Mining」などの研究に従事している彼だが、世界の壁を知る人間としてNISLABに次のようなエールを送る。

 「世界で通用するかどうかは言うに及ばず、実社会で使えるか、言い換えればユーザーの方を向いたサービスかどうかは、そうした思いをどれだけソースコードの中に閉じ込められるかどうか。ユーザーや審査員はソースコードをみることができないとしても、そこに込められた魂はサービスを通して透けてみえるもの。短い期間ではあるが世界大会に向けて十分にブラッシュアップしてほしい。わたしの経験が役に立つのなら、喜んで協力する」(中山氏)

 冒頭の田中氏も、The Student DayやImagine Cupなどアカデミック関連の仕事を通じ、多くの学生と接してきた経験から、「イノベーションももちろん大事だが、それをいかに多くの人に理解してもらえるかはより重要。それ故、“ソリューションの分かりやすさ”というものも考えていく必要がある。また、過去のImagine Cupをみると、上位のチームはWPF(Windows Presentation Foundation)などを当たり前のように使っている。Imagine CupでWPFの使用が必須ではないにせよ、世界で戦うならスタンダードを知っておく意味はある」とアドバイスを贈った。

 記者の目からみても、NISLabのソリューションにはまだまだ荒削りな部分も少なくない。現時点ではコミュニケーション機能が未実装なこともあり、グリッドとみるにはやや物足りない点や、仮にグリッドが構築できたとして、他者の家電機器をどうコントロールするのか(これはアクセスコントロールなども考えていく必要がある)、各ユーザーのユーザー基準をどう均質化していくかなど、数え上げればきりがない。さらに根源的な部分では、ユーザーに省電力の意義をどう自覚させるかといった部分を抜きに論じることはできないだろう。「全世界の消費電力を1%削減すると」ではじまるたぐいのアピールでは、エンドユーザーには響くものが少ない。結果として、問題に対してどうアプローチしたのかがクリアに伝わってこず、汎用的なものに映ってしまうことになる。今回、大会を観覧にきていたサイボウズ・ラボの天野仁史(id:amachang)氏も、「楽しんで環境問題を考える仕組みもあるともっといいのでは」と話していたが、ユーザーの動機付けに対する策もあればさらによいものになるだろう。

 荒削りな部分もあるが、それは可能性を秘めていることの裏返しでもある。毎年、日本代表はThe Student Day終了後から大きく成長し、Imagine Cupが開催されるころには一皮むけたソリューションに仕上げてくる。年々参加人数も増え、今年も激戦が予想されるとはいえ、魂を込めた“分かりやすい”ソリューションで世界をあっと言わせてくれることを期待したい。

 NISLABのメンバーが今回手にしたのは、フランス行きのチケットという物理的なものにとどまらない。自分自身の、そして地球の大いなる可能性を見極める試金石として、この機会を楽しんでもらいたい。

表彰式ではMicrosoftでアカデミックに対する取り組みを統括しているエマニュエル・オグニサンティ氏も登場。Imagine Cup 2008のディレクターでもある彼の目にはNISLABはどう映ったのだろうか
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