新藤愛大――欲望という幻想を現実に変えるActionScripterNew Generation Chronicle(4/7 ページ)

» 2008年05月12日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

イノベーションはすべてのことに対してイエスということではない

―― 最近一番感銘を受けたコード/サービスは?

Flashサイト開発のためのフレームワーク「Progression」です。ベースの機能はもちろんのこと、ユーザー/開発者の双方にとって使いやすくなるような工夫がたくさん盛り込まれています。おそらく世界で一番じゃないかと思うほどFlashの拡張機能も使っていて、さらにドキュメントも充実、コードには丁寧にコメントが書かれている、サポートの早さが半端ない、と、開発者のtaka:niumさんには頭が上がりません。

 わたしがやっているFlash/ActionScript開発のためのオープンソースコミュニティー「Spark project」でホスティングしているのですが、わたしも負けないように(笑)しようと思ってるところです。最近では、たまにわたしがProgressionのテストやバグ修正をコミットしていたりもします。

Spark project のオキテ

  • コミットしたら皆兄弟(仲良くしよう)
  • コミットされたコードは皆のコード(他の人の修正大歓迎)
  • どんどん公開、どんどん共有、どんどん追加

―― 「もう時代遅れになってしまったなぁ」と思う技術があったら挙げてください

「タイムラインベースのFlash開発」ですかね。わたしがFlashを触り始めたころは、逆にこれしかなかったので、タイムラインを駆使してゲームとか作っていたものですが……。小物を作るときはタイムラインを使うこともありますが。仕事ではまずクラスベースの開発ですね。

―― 懐かしい、もしくは時代を感じさせるソフトウェアは何ですか?

Flash自身が結構時代を感じさせるソフトウェアですよね。今となってはAdobe製品ですが、Macromedia時代にもお世話になっていましたし……。Flashにはよい意味でも悪い意味でも昔から変わっていない部分が多いですしね。

―― 大物「ハッカー」といえば?

Flashの黎明(れいめい)期から新しい表現をハックし続けてきたという意味では、中村勇吾さんではないでしょうか。バイナリアン的なベクトルで行くと、ActionScriptを勉強するのに何故かバイナリの方から入ったというサイボウズ・ラボの竹迫良範さんやドワンゴの戀塚昭彦さんは大物ですね。

―― 国内外を問わず、尊敬している「プログラマー」は?

FLASHerの方々は全員尊敬していますが、thaの深津貴之さんは特に尊敬しています。Flashの腕はもちろん、とても広くて鋭い視点を持っている人だと勝手に思っています。

―― 自分より年下で注目しているプログラマーは?

FlashやActionScriptをやっている高校生や中学生(+大学1年生)の方々ですね。といっても、ActionScriptの世界ではわたしより年下の人をなかなか見かけないので寂しいです。もしいたら、一緒にご飯でも食べにいきましょう。コンタクトお待ちしています。最近では、ハチロク世代に続いて、キューイチ世代というはてなグループも出来たので、注目しています。クリエイティブ魂に溢れる若者がどんどん集まってきていますよ。

―― 開発における仲間(コミュニティーなども含め)の存在をどのように感じていますか?

ときには同志で、ときにはライバル。いつも刺激をたくさんいただいています。FlashやActionScriptの世界は26〜28歳前後の方が非常に多く、わたしからすると年上の人ばかりなので、弟想い(と勝手に思っています)の兄がたくさんいるような気分です。本当にありがたいことです。この頼もしい兄さんたちと、いずれ出てくるであろう弟たちと、日本のFlash業界を引っ張っていきたいと、常々思っています。

―― 現在のように各デベロッパーが個別に交流を深めることで、企業内デベロッパーのありかたはどう変わっていくと思いますか?

いままで企業内だけに閉じこもっていたデベロッパーも、どんどん外に出始めるのではないでしょうか。というか、そうなってほしいのですが。

 これまで、Flashの世界は結構独特で、キャンペーンサイトやインタラクティブなサイトのように、そこに独自性が求められることが多く、コードも使い捨てという感じでした。直接表現につながってくる部分も少なくないので、作品としてはみせたいとしても、それを構成するコードはオープンにすることで劣化を早めたくない、という考えが背景にあったのだと思いますが、基本的に人のものを使うという文化がないんですよね。

Spark project Spark projectのロゴ

 そうした状況を変えようとしてはじめたのがSpark projectなのですが、さまざまな企業やフリーランスの方がコミッタとして参加していただいているので、これを推し進めて、垣根を越えた情報や知識の共有をしていければ、Flash業界はもう一歩先に進める気がします。

 一方、いわゆる大手の企業はビジネスの主体がWeb系ではないので、少し事情が違うのかな、という気もします。Adobeはたまに交流の機会を作ってくれたりしますね。衰退することはないでしょうが、全体として成長するのかは疑問だったりします。

―― デザイナーとプログラマー、両者の関係は今後どのようになっていくと予想しますか?

流れとしてはきっちり分業、という方向に行くでしょうが、Flashの場合、両者の境がほかよりもあいまいなので難しそうですね。理想としてはどちらも分かっている人が増えてくれると、その人が橋代わりになってデザイナーとデベロッパーを繋いでくれると思うのですが、なかなかそういう人材もいないようです。

―― ハードウェアベンダーに要望はありますか?

ジョブズが言ったとされるこの言葉を贈りたいと思います。

 「待ってくれ、待ってくれ。手を下ろしてくれ。いいかい。君たちがiTunesに入れることができる1000ものクールなアイデアがあるのは分かっている。もちろんわたしたちもだ。でも、わたしたちには1000のアイデアはいらない。それはみっともないよ。イノベーションはすべてのことに対してイエスということじゃない。それは最も重大な機能を除いて、すべてにノーということだよ」

―― 今、数あるITベンダーの中で「いい仕事してるなぁ」と思うベンダーは?

カヤックとpaperboy&coじゃないですかね。どちらも言わずもがなですが、会社自体もおかしな会社(よい意味で)だし、出てくるサービスも毎度毎度、まさに「いい仕事してますねー」(中島誠之助)という感じです。企画と、テクノロジーの使いどころのバランスがよいですよね。

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