寅さんがいない場所で「タコ社長」は何をしているかIT Oasis(2/2 ページ)

» 2008年05月12日 08時45分 公開
[齋藤順一,ITmedia]
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八面六臂とはまさにこのこと

 また別のある社長は、中国の大連に会社を作った。これがなかなか立ち上がらない。大連には息子を社長として送り込んでいるが、頻繁にSOSメールが来る。社長は金曜に東京から大連に向かい、土日で工場の指導をし、月曜に帰って来て、その足で首都圏にある本社に出社し、翌日は群馬の工場まで車を飛ばし、帰ってくると静岡にあるもう1つの工場の様子を見に行く。

 聞いているだけで目が回りそうだが、「大連なんか九州に行くのと変わらないよ」とニコニコ笑いながらに言うのである。首都圏の中小企業には間接部門を置き、生産拠点は地方にあるという会社は多い。中小企業においては工場長といえども現場で欠かせない戦力であり100%マネジメント側の人ではない。だから社長は工場巡りを止めるわけにはいかない。

仕事に失敗したらどうなるか

 筆者とある社長との会話。仕事が失敗したらどうなるかという話題であった。

 「齋藤さんはいいよね。コンサルだから」

 「よくないでしょう。コンサル料いただけないのだから」

 「私なんかね、大した価値はないけど家屋敷を抵当に入れて会社の資金を借りてるんですよ。商売が立ちいかなくなったら、会社もなくなる、家もなくなる、身ぐるみはがされて放り出されます。そのときは夜逃げですよ」

 もちろんその社長の会社の経営は順調で、IT投資を進めている最中だったので、軽口も言えたのだろう。

一度決めるとIT投資も迅速

 どの会社の社長も会社のことを真剣に愛し、会社の将来を真剣に考え、事業に貪欲で、行動はエネルギッシュで力強い。読者のみなさんの周りにも、おそらく1人ぐらいは、こうした社長がいるのではないか。じっと観察するだけでなく、いろいろと話をしてみるといい。会社や仕事に対するスタンスには大いに学ぶべきところがある。資金力や人手の少なさなどのハンディを物ともせず突き進む。

 つまり厳しい環境の中で真剣勝負で体を張って、ビジネスと向き合っているのが中小企業の社長なのである。出世すごろくの上りとして社長を務める大企業のサラリーマン社長と中小企業の社長が根本的に違うところがもう1つある。

 それは、社長が資本家でもあるということである。最近ではベンチャーキャピタルに出資を仰ぐことも多いが、伝統的な中小企業では創業者が資本を出して会社を立ち上げるというパターンがほとんどであった。そのため、会社の株は一族が保有しおり、会社は親族に引き継がれることが多い。

 つまり、社長は事業家、経営者、資本家の3つの顔を持つことになる。

 従って、投資判断も非常にシビアだ。目に見えない、効果の上がり方が遅いIT投資は後回しにされやすい。

 しかし、実質的な経営者は社長1人であるから、根回しや稟議書、部門長の膨大な判などは不要であり、意思決定は迅速である。社長が十分な納得できるような提案をすることができれば投資は迅速に行われる。IT投資も例外ではなく、必要なIT投資は惜しまないと答える社長がほとんどである。

 実はタコ社長は大変な人物なのかもしれない。

齋藤順一

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


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