図書館でのFOSS貸し出しを目指す新団体が発足Trend Insight(1/2 ページ)

LinuxやOSSが図書館で貸し出しされるようになれば、これまでとは違う新しい世界が開けてくるかもしれない。Public Software Foundationという新団体はこの実現に向けた取り組みを進めている。

» 2008年05月23日 00時00分 公開
[Susan-Linton,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 オープンソース関連の新たな団体が設立された。名前はPublic Software Foundation(PSF)という。フリー/オープンソースソフトウェアを公共図書館向けに提供し、書籍やビデオと同じように貸し出してもらうという活動を行う団体だ。その根底にある発想はシンプルである。人にCDを渡すと、影響がおよぶのはその人だけだが、CDを図書館で借りられるようにすれば、数百から数千の人に影響を及ぼすことができる、という考えだ。

 Public Software Foundationは、トッド・ロビンソン氏とカーリー・ロビンソン氏が中心となって先月旗揚げされた。Linuxの各種ディストリビューションやOpenOffice.orgなどを図書館向けに提供することで、オープンソースソフトウェアに接する機会がない人にも知ってもらうことを狙う。現時点では、インディアナ州北部とコロラド州に1人ずつボランティアがいる。また、マサチューセッツ州トーントンの図書館から引き合いが来ているほか、ほかの図書館でも話が持ち上がりつつある。

 PSFでは、提供するソフトウェアを順次増やしていく予定だ。現時点では、4種類のLinuxディストリビューション(Edubuntu、Fedora、Knoppix、Ubuntu)と統合ソフトOpenOffice.orgを提供している。各ソフトウェアパッケージは、ソフトウェア本体に加えて、分かりやすい英語による説明、ハードウェア要件、ネット上のドキュメントやサポートへのリンク、PSFの提供タイトルを入手できる場所の情報、ライセンス情報で構成されている。ドネーションキット(配布用のPSFタイトルを作成するためのキット)には、CDの盤面やジャケット用の画像も入っている。

 このほか、提案されているタイトルには、Debian Multi-Arch、Linux Mint、PCLinuxOSがある。PSFの承認プロセスはさほど形式張ったものではない。提供タイトルに含めるかどうかの最大の判断基準は使いやすさだ。また、ソフトウェアプロジェクトの成熟度、オンラインドキュメンテーションおよびヘルプチャネルの品質、コミュニティーによるバックアップの充実度も判断に加味される。PSFの代表者、カーリー・ロビンソン氏はこう話す。「例えばFedoraで考えてみよう。先進性を売りにした製品では、どのように動くのか誰にも理解できないという事態が起こりがちだ。だがFedoraの場合、技術面の進歩をコミュニティーが素早く把握しているため、皆に理解が広まり、スムーズに利用できる」。

 PSFで提供されているソフトウェアはすべて、オープンソースのライセンスに基づいて配布されている。オープンソースの定義には次のような規定がある。“「オープンソース」であるライセンスは、出自の様々なプログラムを集めたソフトウェア頒布物(ディストリビューション)の一部として、ソフトウェアを販売あるいは無料で頒布することを制限してはなりません。ライセンスは、このような販売に関して印税そのほかの報酬を要求してはなりません”つまり、誰がどのような理由で使うにせよ、無償で自由に使用および共有できるということだ。

 PSFが目指す目標はたいへん立派だが、その達成にはさまざまな困難が伴う。ロビンソン氏にとっては、時間の制約が特に大きいという。PSFのスタッフが図書館に連絡を取るには限界があり、世界中のほとんどの図書館には手が回らない。それに、新たな取り組み提案するときには、同じ地域に住む人同士が直接会って交渉する方が話が進みやすい。コロラド州デルタ郡図書館のシステム管理者で、Automation System Colorado Consortiumの技術サポート担当を務めるクッキー・ウォルフロム氏は、「わたしの経験では、何人かの図書館員と直接話し合う方がうまくいく」と話す。こうしたことから、PSF自体は、旗振り役としての役割が中心となる。実際の草の根の活動はもっぱらライブラリリエゾンと呼ばれる人たちが担当する。各地で地元の図書館員に連絡を取って交渉する人たちのことだ。ライブラリリエゾンは、Linuxのユーザーグループやボランティアグループが務める場合もあるし、個人が務める場合もある。ロビンソン氏はこう話す。「われわれの仕組みは、Fedoraの Ambassador、UbuntuのLoCO、Freecycleのローカルモデレータのモデルを組み合わせたようなものだ。これら3つはいずれも、地域ごとにある程度の独立性を保ちつつも、コミュニティー全体から支えられているという関係にある。わたしは当面の自分の役割を、Fedoraのグレッグ・デク氏やマックス・スペバック氏のようなものと考えている。つまり、おおまかな方向性は定めるが、実際のハンドル操作は参加者に任せるというやり方だ」。

 もう1つの難題は、図書館の購買担当者や管理者へのソフトウェアの頒布を、費用の掛からない現実的な方法で実現するにはどうすればよいかだ。インターネット技術サービスとデジタルメディア出版を扱うWebpath Technologies社では、ディスクの提供を行い、on-disk.comというWebサイトを利用して、PSFで承認されたディストリビューションや人気のソフトウェアを、そのまま利用可能な低コストのパッケージとして頒布している。また、ドネーションキットを無償で利用することも可能だ。図書館の購買担当者が自らソフトウェアをダウンロードしてCDに焼こうとするとはあまり考えられないが、予算に限りのある各地域のライブラリリエゾンにとっては好都合な方法かもしれない。これなら、各タイトルと付属物のパッケージをボランティアが作成し、図書館に寄贈できる。ロビンソン氏によると、図書館からPSFに連絡があれば、パッケージを無償で送ることもできるという。

 ロビンソン氏によると、もう1つ鍵となる問題は、図書館の購買担当者に対する啓もう活動だという。「当初から分かっていたとおり、図書館員や図書館利用者にとって、オープンソースソフトウェアという概念は未知の領域だ。また、利用者がどこで技術サポートを受けられるかを明確にしておかないと、図書館員たちはソフトウェアの受け入れに消極的だということも、最初の調査の時点で判明した。こうした点に対応できるよう、すべてのタイトルに共通する構成要素は吟味して定めた。分かりやすい英語での説明や、ヘルプに関する情報などだ。図書館によっては、地元のPSFボランティアが質問に対応してくれる場合もあるが、大きな展望としては、コミュニティーによるサポートというものに新しいユーザーも慣れてほしいと考えている。Wiki、電子会議室、Linuxユーザーグループなど、さまざまなリソースから助けが得られる。これらはいずれも、ユーザーのためを思って作られたものだ」とロビンソン氏は話す。

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