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ICT3層ピラミッド崩壊のカギはNGN「エイリアン」襲来(4/4 ページ)

» 2008年06月03日 08時00分 公開
[エリック 松永,ITmedia]
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ユーザーの興味

 強力なサービスストラタムは、有力なサービスアプリケーションの呼び水となり、一度そのプラットフォームでサービスを展開したサービスアプリケーションはほかのNGNには移行できない。では、通信キャリアはなぜNGN範囲外のサービスアプリケーションをそこまで意識しなければならないのか。そんな別の視点でサービスアプリケーションの重要性を考えてみる。

 これまでNGNというと技術的な話題が多く、実体がつかめないないといわれてきた。理由はユーザー視点に立ったサービスの話がないからだ。いや、厳密に言えばできないからだ。

 次の図を見ていただきたい。

 ユーザーは、サービスアプリケーションを通してNGNを体感するしかない。しかも、サービスアプリケーションはNGNの領域外なのだ。これは通信キャリアはよく理解する必要がある。つまりサービスアプリケーションの議論なしでNGNを語っても、ユーザーは興味をもってくれないということだ。

 では、サービスアプリケーションはどうやって提供されるのだろうか。

 1)通信キャリアが自前で提供する、2)専門のサービスプロバイダーが提供するという2つが考えられるが、インターネットの世界になり次々と新しいコンセプトのサービスが提供される時代だ。通信キャリアが自社ですべてを提供するのは困難というのが一般的な考え方だ。従来も通信キャリアがサービスアプリケーションまで提供して成功した事例は少なく、電話サービスがその限界という人もいる。

 だが、ここ10年で実は日本の通信キャリアはその壁を自ら打ち破っている。そう、携帯電話の世界だ。携帯電話では、回線のみならずサービス、日本の場合にはさらに端末までも垂直統合型で通信キャリアが提供している。

 このモデルをNGNでも活用すべきと考える。つまり、通信キャリアはNGNを携帯電話で蓄積したノウハウを生かした垂直統合モデルを中心にした戦略を考えるべきだ。

 ここでいう携帯電話のアプリケーションは、自社で何でもかんでも開発するというモデルではなく、独自のプラットフォームに優れたサービスアプリケーションを呼び込み、さらに囲い込む戦略だ。NGNの世界では、まずはサービスストラタムで独自の強みを強調し、優れたサービスアプリケーションを呼び込み囲いこむところから始めるべきである。

ICTピラミッドの崩壊に向けて通信キャリアのNGN戦略は

 携帯電話のモデルはそのままでは使えない。なぜなら携帯電話はコンシューマー向けのビジネスモデルだからだ。NGNは企業向けのビジネスモデルを持って企業向けから足固めを開始すべきだ。コンシューマー向けのサービスから開始するのはハードルが高い。

 企業向けのビジネススキームは、ICTピラミッドに象徴される構造を持ってユーザーにサービスを提供している。前回の話で申し上げたとおり、「システム」のプレーヤーは上位の「コンサルティング」と統合された新しいスキームでのビジネスを開始している。しかし、これはアプリケーションを支配するシステムのプレーヤーが優れたアプリケーションを持っていることが前提条件だ。

 仮にNGNの時代になり通信キャリアが広義のNGN、つまりサービスストラタムで優れたアプリケーションを支配することができれば、次に重要なのは、優れたサービスをユーザーに導入を促すコンサルティングの機能だ。企業向けのビジネスではICTと経営が今後さらに密接に結びついてくるだろう。従来の提供スキームにこだわらない価値を提案できるコンサルティング機能は必須だ。

 NGN時代のICTピラミッドの崩壊戦略を、通信キャリアのとるべき戦略で列記すれば次のようになる。

  • 1 差別化されたサービスストラタムの提供のために、ソフトウェアベンダーを強力な提携やM&Aで取り込み独自のNGNを創り上げる
  • 2 強力なサービスアプリケーションを取り込むビジネススキームをもって、サービスアプリケーションを取り込む
  • 3 サービスを展開するコンサルティング機能をNGNと一体化させるモデルをつくる

 NGNをきっかけに、ICTピラミッドを崩壊させ、通信キャリアが新たなICTピラミッド崩壊に向けて新しい試みに取り組み、一方でICTピラミッドにおけるシステムとコンサルティングを統合させた新たなプレーヤーが、競争の中からさらにユーザーに魅力あるサービスを提供するような環境になれば面白いことになる。

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著者プロフィール:エリック 松永

エリック 松永

19世紀米国の二大発明家グラハム・ベルに起源を持つ米通信会社AT&Tにて、ネットワークコンサルティングの領域を開拓。アクセンチュアで「ネットワーク」を柱にメディアやエンターテイメントを融合させた独自のコンサルティングはクライアントから高い評価を得る。現在、通信事業者に対する戦略コンサル、及び新規事業開発、M&Aに携る。


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