GoogleとMicrosoftの領土に進出する「Adobe Acrobat.com」オンラインコラボレーションの覇権を争う

Adobeの無償オンラインコラボレーションスイートは、Google AppsおよびMicrosoft Office Live Workspaceへの対抗を狙っている。

» 2008年06月04日 06時00分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 Microsoftのオンプレミス(社内導入)型プロダクティビティ/コラボレーションスイートであるOfficeとSharePointを、同様のアプリケーションのホステッド/オンラインバージョンでリプレースすることを狙っている大手ソフトウェアメーカーはGoogleだけではない。

 Adobe Systemsは6月2日、ワープロ、ファイル共有、Webカンファレンスソフトウェアのスイートとなる「Acrobat.com」をパブリックβ版として無償提供を始めた。このソフトウェアは、「Adobe Acrobat 9.」の発表に合わせてリリースされた。

 Google Docsに対抗する「Buzzword」はWebベースのワープロで、ユーザーはドキュメントの共同編集/共有機能を利用してコメントを付けたり、レビューしたりできる。

 ReadWriteWebのライターであるサラ・ペレス氏によると、Buzzwordのインタフェースは美しく、Buzzwordのドキュメントは大画面上でも小画面上でも、あるいは印刷されたページ上でも、フォント、文字間隔、色、グラフィックが完全に再現されるという。

 「ConnectNow」はAdobeのWebカンファレンスサービスである。このアプリケーションは、デスクトップ共有、ビデオ/音声会議、統合チャットなどの機能を提供する。

 ペレス氏は論評記事の中で、ConnectNowの唯一の欠点として、サービスを同時に利用できるのは3人だけであることを指摘している。ConnectNowがサポートする同時接続ユーザーが3人であれ30人であれ、ConnectNowはもう1つの潜在的問題を抱えている。このアプリケーションが進出しようとしている分野は、同じようなオンラインコラボレーションツールでごった返しているのだ。

小さなデスクトップスペースに多数のアプリケーション

 こういったアプリケーションの多くは、ユーザーが自分のデスクトップにダウンロードしており、増殖する多数のアプリケーションが企業のデスクトップにあふれ返っている。これは、例えばジャーナリストにとって問題となる。さまざまな企業が利用する多彩なWebカンファレンスアプリケーションの奴隷になってしまうからだ。

 ユーザーがソフトウェアをダウンロードする必要がないホステッドWebカンファレンスアプリケーションは一服の清涼剤ともいえるが、CiscoやIBMなどの企業が提供している多数の競合アプリケーションとの競争が待ち受けている。

 Acrobat.comの「My Files」は、ファイル共有機能とストレージスペースを提供する。ユーザーは作成者、ファイルタイプ、アルファベット順、作成日時、更新日時などのフィルタを通じてドキュメントをブラウズできる。提供されるストレージ容量は5Gバイト。

 Acrobat.comはさらに、最大で5つのドキュメントに対応したオンラインPDF変換機能や、コラボレーション、ファイル共有、変換のための開発者用APIなども提供している。

 Acrobat.comがAdobeのほかの製品から完全に孤立したスイートであるという誤解を招かないようにするため、Adobeでは新しいAcrobat 9のユーザーが、フォームの共有、フォームデータの収集、共同レビューの実施、PDFドキュメントの共同閲覧などの作業の中心となる場所としてAcrobat.comを利用することを期待している。

 IDCのアナリスト、メリッサ・ウェブスター氏は「Buzzwordワープロを開発したVirtual Ubiquityを買収して以来、Adobeがこれらの製品の形成で大きく前進したのは明らかだ」と話す。さらに同氏によると、Acrobat ConnectNowはしばらくの間、「Brio」という名前でβテストが続けられ、Adobeは数年前から「Create PDF Online」機能を提供してきたという。

 「今回注目されるのは、これらの製品が共通のブランドとユーザーエクスペリエンスを備えた緊密なオンラインサービスセットとして統合される点だ」とウェブスター氏はeWEEKの取材で語っている。

 「Adobeの製品の特徴は、ConnectNowおよびPDF作成機能との連携だ。これは単にドキュメントを共有するだけでなく、実際にドキュメントを作成する際のコラボレーションプロセスでも重要だ」(同氏)

キーワードは「ブランド」

 ReadWriteWebのペレス氏によると、Adobeが自社のコア製品の価値を最大化するためにWebを活用しているところは、Google AppsとMicrosoftのOffice Live Workspaceも見習うべき部分だという。同氏は、Acrobat.comスイートの優れた点として、Acrobat 9、AdobeのAIR、PDF、Flash、Flexとの連携によって一貫性のあるブランドエクスペリエンスを提供していることを上げている。

 新スイートのキーワードは「ブランド」であるようだが、それは同時にAdobeがライバルに対抗する上での最大のチャレンジでもある。

 Microsoftはデスクトップソフトウェアの代名詞であり、Googleは検索とホステッドアプリケーションで有名なのに対し、Adobeはドキュメント作成のスペシャリスト、そしてリッチWebプラットフォームのプロバイダーとして知られてはいるが、オンラインプロダクティビティ/コラボレーションソフトウェアのベンダーとしては認知されていない。

 Googleがオンラインプロダクティビティ/コラボレーションソフトウェアの分野で認知されるのに数年を要したが、Microsoftに加えて今度はAdobeがGoogleに追い付こうと競争しているのだ。

 Adobeがユーザーに感動を与え、口コミを通じてウイルスのように自社スイートを拡散させることができれば、同社はZohoやSalesforce Content、そして多数の個別ツールプロバイダーの製品が含まれる今日の肥大したホステッドアプリのメニューに新たな項目を提供するだけにとどまらず、Webコラボレーションソフトウェア分野における真のチャレンジャーになるだろう。

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