マネジメントに見られる「タイタニック現象」――問題先送りと慣性IT Oasis(2/2 ページ)

» 2008年06月13日 09時07分 公開
[齋藤順一,ITmedia]
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現状に固執して、撤退の決断が下せない

 人は失敗を認めたがらないので業績悪化のサインが出ても、サインを違うものだと考えることによって合理化してしまう。不良率が急増しても計算ミスではないかと疑ったりするのである。人がある認知(知識、経験、行動など)と矛盾した認知に遭遇した時に感じる心地の悪さを解消しようとする行動、認知的不協和である。

 「すでに20億円のR&D投資をしたのだから、今さら引き返せない」といったケースもある。今までの経緯から現状に固執して、撤退の決断が下せないのである。すでに発生し取消不能なコストは埋没コストと言って、意思決定に影響を及ぼさないはずであるが、心理的には影響を受けてしまう。

 売り上げが落ちたが、これは自社が置かれている環境や体力からみて受け入れざるをえないといった結論を出す。これは不都合な現状を受け入れているとは言えない。抜本的なかじ取り変更をするのではなく、受け入れるのを躊躇して、目標水準そのものを下げて合理化しているだけなのだ。これを希求水準の低下という。そして、冒頭のタイタニック現象である。

経営者の改革への強い意志

 ブリッジにいる船長は前方に氷山を視認し、このまま進めば氷山にぶつかりそうになると認識した。乗組員に回避指令を出すが、機関室からは氷山は見えないし、乗組員はタイタニックは不沈艦だと信じている。したがって警鐘を鳴らしても多くの船員には緊急事態は飲み込めず、船はカジを切っても惰性で航行を続け、船は約束された未来に向かって突き進み、氷山に衝突してしまうのである。

 チャンスや危機に気がつかない経営者はいない。ゆでガエル現象は都市伝説である。

 気がついても対処策が浮かばなかったり、現象を理解するのに時間がかかり、変革の意思決定ができなくて立ちすくんでしまったり、決定が遅れたりして後手を踏むのである。

 経営が順調でも、悪化しても革新に踏み出さない理由は企業の慣性にある。では慣性を少なくし感度をあげるにはどうすればいいのだろうか。

 経営者の改革への強い意志、外部環境の変化の予兆に対する感度向上、改革の重要さを理解させるための従業員への教育、改革に取り組む企業風土の醸成などが必要だろう。その場合でもチャンスや危険を知らせる情報が意思決定者に正しく適切に伝わる仕組みが重要である。

組織慣性とIT

 最近の飛行機はフライ・バイ・ワイヤで操縦する。ケーブルと油圧配管に変えてコンピュータが操縦を支援するのである。操縦の感度をよくするために慣性を低くし、制御なしでは機体が不安定になるような設計が行われるという。

 企業で慣性が高い状況は惰性に陥っている可能性もある。リードタイムを短くしたり、指令に対する応答性を高めたりすることで感度を高めることができる。

 これらは情報の伝達速度や処理速度を速くすることが求められる事柄であり、ITの利活用が有効である。特にフィードバックのツールとしてITは昔のコンピュータシステムと違って大きな効果をあげる。

 ITの導入は効果が上がるまでに時間がかかる。チャンスや危機が氷山のように目の前にやってきてからでは間に合わない。常に感度を上げておくことが必要でそのためにもITをツールとして活用したい。

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齋藤順一

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


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