無線LANを提供――しかも相手は50名の保険レディ良い管理者 悪い管理者 普通の管理者(2/6 ページ)

» 2008年07月15日 08時00分 公開
[木村尚義,ITmedia]

今回の管理者:田中和男(外資系保険会社A社)

 田中和男は、外資系保険会社A社に勤めて7年になる。A社は、日本の保険自由化をきっかけにシェア拡大を目指して日本に進出してきた。設立当初は、外資流のビジネスのやり方と日本のビジネスのやり方にギャップがあり、保険の売り上げよりもシステムのすり合わせにマンパワーを割かれていた感がある。英語が堪能な和男は、ヘッドオフィスに掛け合い、A社のシステム化に日本独自の仕組みを取り入れて成果を上げてきた。

 A社では、現在約50名の保険レディと契約している。約50名といっても、人の入れ代わりが激しい。保険レディは、契約社員というよりも個人事業主で、ある意味、一人ひとりが独立した企業家だ。春には新入社員の新規加入獲得のために増員されるのだが、この時期を過ぎると成績の芳しくない者は徐々に退社して、約50名に落ち着くのだ。

 近年、保険業界は自由化によって多様な商品を扱うようになってきている。商品を説明するのも大変だし、契約者の保険金額の算出にも複雑な計算を必要とする。そこで、A社では保険レディの一人ひとりに、ノートPCを持たせている。客先で希望を聞いて、その場でシミュレーションすることで、顧客の要望に応じたプランをその場で提示するのだ。A社が競争の激しい日本の保険業界で生き残っていられるのも、保険レディに使いこなせる簡単なシステムを、和男が作り上げた功績が大きい。

 ノートPCの機材を保険レディの人数分そろえるにしても、前述のように季節によって保険レディの人数に幅がある。そのため、マネジャーやリーダーといった中心的な社員はリースで対応し、契約社員にはレンタルで対応している。レンタルの場合、期日が来ればハードディスクを初期化して返却する。そのため、電子カタログやシミュレーションプログラム以外の情報を入れておくのは避けるようにしている。顧客情報などの重要な情報をノートPCに蓄積していると消すのを忘れて返却してしまうことがあるからだ。また、顧客情報の紛失・盗難を防ぐためにも、ノートPCには個人情報をなるべく置かないことを方針としている。

 しかしこれでは、せっかくの顧客情報がなかなか蓄積できないし再活用も進まない。そこでA社では、顧客データはすべてサーバにおき、保険レディは必要に応じてWebベースのグループウェアから情報を引き出すようにしている。グループウェアの情報はノートPCに転送されると24時間だけ参照することが可能となり、期限が過ぎると資格情報を再取得しなければ読み出せない、というシステムにしている。保険レディは今日のアポイントメントに必要な最小限の個人情報のみを管理すればよいわけだ。このシステムは、非常にうまく機能していた。

 田中和男は、5年前の移転のときにオフィスレイアウトを相談された際に、あらかじめLANケーブルを床下に埋めようと進言した。保険レディは外出先から帰ると、LAN端子をノートPCに接続するだけでサーバにアクセスできる。外出することが多い保険レディには決まった机がないため、出社時に空いている席に座りLANケーブルを挿すだけでグループウェアを使えるような配線にしていたのだ。

 ところが、LAN端子が壊れるケースが目立ってきた。ケーブルの抜き差しを繰り返しているうちに端子のツメが折れてしまうのだ。保険レディがノートPCを操作していると、いつの間にか抜けてしまい、接続エラーになる。保険レディは独立企業家なので、仕事の効率についてはシビアだ。途中までの入力作業が無駄になってしまえば、保険レディの業務効率も低下してしまうし、システムのサポート窓口を兼任している和男にもクレームが寄せられて困ってしまう。

 こんな状況が続いていたときに、家賃の安い新築物件が見つかり、近々オフィスを移転することにした。和男は、これを機会に、かねてから考えていた無線LANを導入することを決断した……。

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