中堅中小企業の経営基盤改革術

報酬制度で競争力を高める人事戦略コンサルタントの提言(4/7 ページ)

» 2008年07月17日 13時00分 公開
[吉岡利之, 池谷和之,ベリングポイント]

適用事例

 <ケース1>2005年創業のITベンチャーA社

  • 成長率は年率72%。事業変化・組織改編・人材入退が極めて激しい
  • 従業員の職務内容は頻繁に変わり、拡大する
  • コトが起きると、手が空いているメンバーが自然に集まり、都度問題解決に協力する風土
  • 従業員個々人の意識、スキルレベルは高いレベルで均質化しているが、ノウハウ・経験の組織内への蓄積までは及んでいない。
  • 経営者は、今後の競争優位を生むには、永続的な従業員間の仕事を通じた交流が必要であると認識している

あえて固定的な要素の強い年功・職能重視の給与制度を打ち出す

 一般的に事業変化の激しい業界ほど、報酬設計も金額変化に富んだ変動型(歩合給・成果給)中心であるべきという固定観念が根強い。従来、A社においても、優秀な人材を集める名目の下、短期成果に応じて給与を支払う報酬文化を敷いてきた。実際、従業員はよく働いてくれ、会社も一定レベルまで成長したが、従業員も会社も今以上に成長するために、ある種の行き詰まりを感じ始めていた。そこで、経営者は業界の常識とは逆転した発想となる、「固定型の年功・職能重視の給与制度」を打ち出した。

 報酬自体を「未来の成長への投資」と位置付け、従業員に対して、長期間を通じた労働・技術習得を推奨し、働く安心感を植え付ける経営判断であった。A社は、ベンチャー企業の柔軟性と永続的事業発展組織の強靭さを備えた業界の新興勢力として、さらに成長の勢いを加速している。

 長期間で技術を蓄積していく“熟練ITプロフェッショナル”が支える事業・組織を目指し、「従業員に求める働き方:長期安定的な労働と技術習得」「従業員が動機付けられる要素:安心感、長期的に成長できる環境」を実現する。

ペイポリシー:未来の成長への投資

 設計方針:固定報酬(年齢や勤続年数に応じて安定的に昇給する給与)中心の報酬

【図5】 固定報酬・変動報酬割合イメージ

 固定報酬は長期間で技術・技能を蓄積していく働き方に報いるもの。変動報酬は技術習得を特に短期間で達成した、技術に革新をもたらした貢献人材に報いるものだ。固定報酬比率を高く設定することで、経験による技能の向上を評価し、一定の昇給を期待しながら安心感を持って働くことを企図する。

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