中堅中小企業の経営基盤改革術

ここで差がつく――人材管理におけるICT戦略人事戦略コンサルタントの提言(4/5 ページ)

» 2008年07月31日 12時57分 公開
[野石龍平(ベリングポイント),ITmedia]

身近となったe-ラーニング

 中堅中小企業に限らず、近年日本企業では人材不足が深刻である。日本能率協会が実施した企業の経営課題に関するアンケート調査では、2004年時点では上位10位までに人材育成や社員の成長は入っていなかったが、2007年時点では人材強化が2位にランキングしており、その重要性が増してきている。この領域でもICTをうまく活用することで、大きな投資効果を得ることができる。具体例としては、PCなどのデジタル端末を通して学習をするe-ラーニングの分野が代表的である。

 都内にある従業員10人のあるデザイン会社では、e-ラーニングコースを活用して職員のスキルアップを図っている。この企業では主にイラストレーターやフォトショップといったデザイン作成に必要ソフトウェアの使い方を覚えさせることに活用しているという。社長によれば「いままでは新しい職員を雇っても、ソフトウェアの使い方に慣れていない場合は、ベテランの社員が手取り足取り教えていた。結果として、作業にも遅延が生じがちであった。今は改善されており、今後職員を増やしていこうと思っている」とのことであった。

 中堅中小企業では最近、この企業のように社内トレーニングにe-ラーニングを取り入れる企業が増えている。上記の例のように純粋に学習コースのみ利用するだけでなく、ラーニングマネジメントシステム(LMS: Learning Management System)を活用するパターンもある。

 LMSとは、単にe-ラーニングを提供するだけでなく、職員一人ひとりのスキルを管理し、その人材のスキルにあった学習を提供する仕組みである。近年では、目標による自己管理(MBO: Management By Objectives and Self-control)の機能や人事データベースとしての機能も実装しているLMSもある。

 LMSを活用することのメリットは、一人ひとりの「成長」を管理できる点である。事前に職員に求められるスキルを定義し、各職員が有しているスキルを登録させることで、そのスキルを成長させるために必要な学習は何なのかを、LMS上で提示することができる点である。これにより、強みをさらに伸ばし、ギャップを補っていくことが出来、効率的な成長を実現することができる。

 e-ラーニングというのは中堅中小企業にとっては身近で、活用しやすいツールである。さまざまな既成の学習教材を利用する以外にも、自社のパワーポイントの資料に少し手を入れたり、デジタルビデオを使ったりすることで、簡単に企業独自の、自社のビジネス展開に必要なオリジナルの学習教材を作成することができる。

 またe-ラーニングは今や、単なる学習ツールとしてだけではなく、経営層のメッセージや、法令順守や内部統制の内容を社内に徹底するツールとして活用できる。人材育成を実現するだけでなく、こういった社内へのコミュニケーションの徹底ツールとしてe-ラーニングを位置付けることも重要である。

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